「登記って、自分でやってもいいんですか?」
相続や不動産の名義変更のご相談で、本当によく聞かれる質問です。
結論から言うと――
登記は法律上、ご本人が自分で申請してかまいません。
司法書士に頼まなければいけない、という決まりはありません。
ただし、「できるかどうか」と「やるべきかどうか」は別問題です。
この記事では、自分で登記ができるか気になっておられる方向けに、
- 自分で登記するメリット・デメリット
- どんなケースなら自分でやってもいいか
- 逆に、司法書士に任せた方が安全なケース
- 2024〜2026年の法改正(相続登記・住所変更登記の義務化)を踏まえた注意点
を、なるべく実務に即して整理してみます。
1.そもそも「登記は自分でできる」のか?
法律上は「本人申請OK」
不動産登記も商業・法人登記も、本人が自分で申請すること(本人申請)が認められています。
法務局のホームページには、主な登記申請書の様式や記載例が公開されており、窓口や電話、ウェブ会議での「登記手続案内」も用意されています。
- 申請書のひな形:法務局HPからダウンロード
- 手続の流れや必要書類:各種パンフレットやPDFで案内
- 不明点:法務局の登記手続案内で相談可能
仕組みとしては「自分で登記しやすい方向」に進んでいるのはたしかです。
2.自分で登記する主なメリット
① 一番わかりやすいメリットは「報酬の節約」
司法書士に依頼すると、
- 登録免許税(国に払う税金)
- 各種証明書の実費
に加えて、 - 司法書士報酬
がかかります。
自分で登記をすると、この「司法書士報酬」の部分を節約できます。
ざっくりイメージとしては、
(物件の価格や難易度で変わりますが)
| 項目 | 自分で登記 | 司法書士に依頼 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | かかる | かかる |
| 戸籍・評価証明書などの実費 | かかる | かかる |
| 司法書士報酬 | 0円 | 数万円〜十数万円程度(内容による) |
「時間はかかってもいいから、とにかく出費を減らしたい」という方にとっては、ここが最大のメリットです。
② 手続きの流れや仕組みを「自分の知識」として残せる
自分で登記をすると、
- 登記簿の見方
- 必要書類の種類
- 法務局や市役所での動き方
を、体感として理解できるようになります。
一度しっかり経験しておくと、
- 将来、他の不動産を取得したとき
- 親の相続が起きたとき
- 自分が高齢になったときの生前対策
など、次のステップでも役立ちます。
③ 自分のペースで進められる
司法書士に依頼すると、
- 連絡のタイミング
- 書類のやりとり
など、どうしても「事務所のペース」にあわせる場面が出てきます。
自分でやる場合は、
- 今日は戸籍だけ請求する
- 週末に申請書を書き上げる
- 有給を取れる日にまとめて法務局へ
というように、自分の都合で区切りながら進められるのもメリットです。
3.自分で登記するデメリット・注意点
メリットだけ見ると「じゃあ自分でやろう」となりがちですが、実務を見ていると、デメリットの方が効いてしまうケースもかなり多いです。
① とにかく「時間と手間」がかかる
自分で登記をされる方からよく聞くのは、
「思っていたより役所・法務局に行く回数が多かった」
「書類を書き直して、また行くことになった」
という声です。
たとえば相続登記なら、
- 故人の出生から死亡までの戸籍をすべて集める
- 相続人全員の戸籍・住民票を取得
- 固定資産評価証明書を取得
- 遺産分割協議書の作成・押印
- 登記申請書・添付書類のチェック
- 法務局に申請 → 不備があれば補正対応
と、平日昼間にしか動けない手続きが続きます。
お仕事をしながらだと、
- 有給を何日も取ることになった
- 結局、途中から司法書士に依頼した
というパターンも少なくありません。
② 書類のミスや「登記漏れ」のリスク
よくあるのは、
- 住所や氏名の一文字違い
- 登記事項証明書の地番・家屋番号の写し間違い
- 相続人の一部を戸籍上拾いきれていない
- 私道や共有持分の登記を見落としている
といったミスです。
法務局は記載方法や添付書類の案内はしてくれますが、
「もっと有利な方法がありますよ」「その税金の話は大丈夫ですか」までは教えてくれません。
- 「贈与」として登記した結果、高額な贈与税がかかってしまった
- 相談していれば別の登記原因を選べたはずだった
- 登録免許税が非課税で登記できるのに、登録免許税を払ってしまった
というご相談も現場では実際にあります。
③ 法改正・最新ルールを自分で追いかける必要がある
ここ数年、不動産登記を取り巻くルールは大きく変わっています。
- 2024年4月1日:相続登記の義務化
相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしないと、
正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になるルールです。 - 2025年4月21日:検索用情報(スマート変更登記)の申出スタート
氏名・住所・生年月日・メールアドレス等の「検索用情報」を申し出ておくと、
住所等が変わった際に登記官が職権で住所変更登記をしてくれる制度です。 - 2026年4月1日:住所・氏名変更登記の義務化(予定)
登記名義人の氏名・住所を変更した日から2年以内に変更登記をしないと、
5万円以下の過料となる可能性があります。
「自分で登記する」=これらのルールを自分で把握し、期限や義務を守っていく責任も自分で負うということです。
④ 他の人を巻き込むリスク(共同申請)
売買や贈与などの所有権移転登記は、原則として「登記権利者(買主・受贈者)」と「登記義務者(売主・贈与者)」が共同で申請する仕組みです。
自分で登記をすると、
- 売主や他の相続人に書類をお願いする
- 記載ミスがあれば再度協力を求める
必要が出てきます。
登記がスムーズにいかないと、
- 売主からの信頼を損ねる
- 相続人間の感情がこじれる
など、「自分の問題」で済まない場面もあり得ます。
4.どんな人・どんな登記なら「自分で」でも現実的?
あくまで目安ですが、実務で見ていて「ここまではご自身でも検討の余地あり」と思うのは、次のようなケースです。
自分で登記することを検討してよさそうなケース
- 不動産の価格がそれほど高額ではない(たとえば数百万円台の土地など)
- 権利関係がシンプル
- 相続人が配偶者と子どもだけ
- 売買でも当事者が少なく、関係が良好
- 平日日中に役所・法務局へ行く時間がある
- 書類作りが嫌いではなく、細かいチェックが苦にならない
- 補正で何度か通う可能性があっても「勉強代」と割り切れる
司法書士に任せた方が安心なケース
逆に、次のようなときは「自分でやる」より「失敗しないこと」を優先した方が良いと感じます。
- 不動産の価格が高額(自宅や投資用不動産など)
- 相続人が多い、再婚・養子などで家族関係が複雑
- すでに相続から時間が経っており、戸籍が遠方に散らばっている
- 贈与・財産分与・事業用不動産など、税金や将来の売却まで見据える必要がある
- 売買で「決済当日に確実に登記を通す」必要がある
- 高齢の親名義の不動産で、将来の介護や施設入所も視野に入れている
このあたりは、「登記の書類を作れるか」ではなく、「全体として損をしないか」で判断するポイントです。
5.2024〜2026年の法改正をふまえた「今」の注意点
繰り返しになりますが、これから数年は登記を取り巻く環境が大きく動きます。
- 2024年4月1日 相続登記の義務化施行
- 2025年4月21日 検索用情報の申出制度スタート(スマート変更登記)
- 2026年4月1日 住所等変更登記の義務化施行予定
「登記を放っておける時代」ではなくなってきている、というのが大きな流れです。
自分で登記をするにしても、
- いつまでに何をしないといけないのか
- 相続登記と住所変更登記をどうセットで考えるか
を意識しておくことが、とても大切になってきます。
6.それでも自分で登記するなら――最低限押さえたいコツ
自分でやってみたい、というお気持ちを否定するつもりはまったくありません。
チャレンジするなら、次のポイントだけはぜひ押さえておいてください。
- まず法務局の公式情報に目を通す
- 「不動産登記申請手続」「申請書様式」などのページから、自分のケースに合う案内やパンフレットをチェックする。
- 必要書類のリストを自分で作る
- 戸籍・住民票・評価証明書など、「誰の」「何を」「どこで」取るのかを紙に書き出してから動く。
- 法務局の「登記手続案内」を早めに予約する
- 電話や窓口・ウェブ会議で、事前に方向性を確認しておくと、無駄足が減ります。
- 期限がある手続き(相続登記・住所変更登記)はスケジュール表を作る
- 「◯年◯月◯日までに申請」など、過料リスクのある期限は必ずメモに。
- 不安な部分だけ「部分的に専門家に頼む」選択肢も検討する
- 戸籍収集や相続関係説明図だけ依頼する
- 申請書のチェックだけ依頼する
といった、ハイブリッドなやり方も可能です。
7.司法書士に依頼するメリットは「登記書類」だけではない
司法書士に頼むメリットは、単に
「自分の代わりに申請書を書いてくれる」
ということにとどまりません。
- その登記の前後にどんなリスクがあるかを一緒に考える
- その贈与で税金はどうなるか
- 将来売却・住み替えするときに困らないか
- 相続人や関係者とのコミュニケーションをサポートする
- 登記漏れ・添付書類の取りこぼしを防ぐ
- 今後予定されている相続や介護・成年後見まで含めて設計する
といった、「中身と将来を含めたサポート」こそ、専門家に依頼する大きな意味だと思っています。
8.まとめ:お金・時間・リスク、どこにウェイトを置くか
最後に、もう一度シンプルに整理します。
- 自分で登記するメリット
- 司法書士報酬を節約できる
- 登記の流れを自分の知識として身につけられる
- 自分のペースで進められる
- 自分で登記するデメリット
- 平日日中の時間と労力がかなり必要
- 書類ミス・登記漏れ・税務面の見落としのリスク
- 相続登記・住所変更登記の義務化など、法改正を自分で追う必要
「多少の手間やリスクは勉強代」と考えられるなら、自分で登記に挑戦するのも一つの選択です。
一方で、
- 大きな財産に関わる
- ご家族・相続人が多い
- 失敗したときに取り返しがつきにくい
そんなケースでは、専門家をうまく使った方が、総合的には「安心でお得」になることが多いです。
「ここまでは自分でやってみたいけれど、この先が心配」
「相続登記の義務化もあるし、どこから手をつけたらいいかわからない」
そんなときは、一度プロの意見を聞いてから「自分でどこまでやるか」を決めるのも、賢いやり方だと思います。
シアエスト司法書士・行政書士事務所では、ご自身でできる部分と、専門家に任せた方がいい部分を一緒に切り分けながら、「損をしない登記の進め方」を丁寧にご提案していきます。
記事の内容について「うちのケースだとどうなの?」というご相談があれば、いつでも声をかけてください。


