家族信託と任意後見の違いは?できること・始まる時期・監督・費用を表で比較、どちらが合うか・併用の考え方と2026年改正【西宮の司法書士が解説】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

「父は今のところ元気だけれど、もし認知症になったら、実家や預金はどうなるのだろう」
「家族信託と任意後見、名前は聞くけれど、うちにはどちらが合うのか分からない」

親が年齢を重ねると、ご本人には「元気なうちに自分で決めておきたい」という思いが、ご家族には「何を準備しておけばいいのか」という不安が生まれます。その備えとしてよく名前が挙がるのが、家族信託と任意後見です。

西宮でも、「家族信託と任意後見のどちらを選べばよいか」というご相談をお受けすることがあります。

2つの制度は、どちらも「判断する力が落ちたときに備えて、信頼できる人に任せておく」仕組みです。ただ、任せられることの範囲、始まる時期、誰がチェックするのかが大きく違います。この記事では、2つの違いを表で比べたうえで、どんなご家庭にどちらが合うのか、両方を組み合わせる考え方、2026年に成立した任意後見の改正までを順にお話しします。

目次

先に結論:お金と不動産の管理は家族信託、暮らしの手続きは任意後見。両方を組み合わせる方法もあります

  • 家族信託は、信託した財産(実家、預金の一部など)を、信頼できる家族(受託者)が契約に沿って管理・処分する仕組みです。契約したときから始まり、裁判所の監督はありません。ただし、対象は「信託した財産だけ」です
  • 任意後見は、判断する力が不十分になったときに、あらかじめ選んだ人(任意後見人)が、財産の管理に加えて、介護サービスや施設入所の契約など暮らしの手続きを代わりに行う仕組みです。家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときに始まります
  • 施設や介護の契約、病院の入院手続きなど、暮らしにかかわる手続き(身上監護)は、任意後見ではできますが、家族信託ではできません
  • 実家の売却や管理を柔軟に進めたいなら家族信託、生活全体を法的に支えてほしいなら任意後見が向いています。両方を組み合わせて、足りないところを補い合う方法もあります
  • 2026年6月に、任意後見の見直しを含む改正法(令和8年法律第45号)が成立しました。施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日で、2026年10月時点では、まだ今の制度のままです

1. 家族信託と任意後見のしくみ

家族信託とは

家族信託は、法律上は「信託」という仕組みです。財産を持っている人(委託者。多くは親)が、信頼できる人(受託者。多くは子)に財産を託し、決めた目的に沿って管理や処分をしてもらいます(信託法2条・3条)。財産から生まれる利益を受け取る人を「受益者」といい、親が委託者と受益者を兼ねる形がよく使われます。

たとえば、親の実家と預金の一部を子に信託し、「親の生活と介護のために管理する。必要になれば実家を売って施設の費用に充てる」と決めておく、という使い方です。

信託契約は、契約を結んだときから効力が生じます(信託法4条1項)。実家などの不動産を信託した場合は、信託の登記をして、受託者が名義人になります。受託者は、信託された財産を自分の財産と分けて管理し、ていねいに管理する義務を負います(信託法29条・34条)。

任意後見とは

任意後見は、判断する力が十分なうちに、将来の生活・療養看護・財産の管理に関する事務を、自分で選んだ人に任せておく契約です(任意後見契約に関する法律2条1号)。契約は、公正証書で結ばなければなりません(同法3条)。

契約を結んだだけでは、まだ始まりません。本人の判断する力が不十分になったときに、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選んだ時から、契約の効力が生じます(同法2条1号・4条1項)。任意後見人は、契約で決めた範囲で本人の代わりに手続きを行い、任意後見監督人がそれをチェックして家庭裁判所に報告します(同法7条)。

2. 違いを表で比べます

比べる点家族信託任意後見
始まる時期信託契約を結んだ時から(元気なうちから動き出せる)判断する力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から
対象信託した財産だけ(実家、預金の一部など)契約で決めた、生活・療養看護・財産の管理に関する事務
暮らしの手続き(身上監護)できないできる(介護サービス・施設入所の契約、入院の手続きなど)
財産の処分契約で決めた範囲で、受託者の判断で売却や建て替えもできる本人の利益のための範囲で行う。自宅の売却などは慎重な判断が求められる
監督裁判所の監督はない。契約で信託監督人などを置くことはできる任意後見監督人(多くは司法書士・弁護士などの専門職)が監督し、家庭裁判所に報告する
任せる相手信頼できる親族など家族のほか、専門職や法人に頼むこともできる
本人が亡くなった後契約で決めておけば信託を続けられ、残った財産を誰に渡すかも決めておける本人が亡くなると契約は終わる
主な費用の考え方始めるときに契約書・公正証書・信託の登記などの費用がかかる。続くあいだは、監督人を置かなければ裁判所関係の費用はかからない始めるときに公正証書の費用、効力を生じさせるときに家庭裁判所への申立ての費用。続くあいだは任意後見監督人の報酬がかかる

違い1:始まる時期

家族信託は、契約を結んだ時から始まります。親が元気なうちから子が実家の管理を引き受け、親の様子を見ながら少しずつ慣れていく、という使い方ができます。

任意後見は、契約を結んでから実際に始まるまでに時間が空きます。判断する力が落ちてきたときに、本人・配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者が家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選ばれて初めて始まります(任意後見契約に関する法律4条1項)。本人以外が申し立てるときは、本人が意思を表せない場合を除き、本人の同意が必要です(同条3項)。

違い2:任せられること(身上監護は任意後見だけ)

いちばん大きな違いは、暮らしにかかわる手続きです。

任意後見人は、契約で決めておけば、介護サービスの契約、施設への入所契約、病院の入院手続き、医療費や施設費の支払いなどを、本人の代わりに行えます。本人の意思を大切にし、心身の状態や生活の様子に配慮しながら進めることが求められます。

家族信託の受託者ができるのは、信託した財産の管理と処分です。受託者という立場で、施設の入所契約や介護サービスの契約を本人の代わりに結ぶことはできません。家族信託で「できないこと」については、次の記事で詳しく説明しています。

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なお、手術などの医療行為に同意することは、任意後見人にもできないと考えられています。厚生労働省のガイドラインは、成年後見人等の役割には、いわゆる医療同意権までは含まれないとしています。

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違い3:対象になる財産

家族信託で受託者が管理できるのは、信託した財産だけです。信託していない預金口座や、後から入ってきた財産は、信託の外にあります。

また、年金を受け取る権利は、法律で人に譲り渡すことができないとされています(国民年金法24条)。年金そのものを信託に入れることはできず、年金が振り込まれる本人名義の口座の手続きは、信託とは別に考える必要があります。

任意後見は、契約で代理権の範囲を決めておけば、本人名義の預金、年金の手続き、役所の手続きなど、財産全体を対象にできます。

違い4:誰がチェックするか

家族信託には、裁判所の監督がありません。家族の自由がきく反面、受託者がきちんと管理しているかを確かめる仕組みは、自分たちで用意する必要があります。契約で「信託監督人」や「受益者代理人」を置くこともできます(信託法131条・138条)。

任意後見では、任意後見監督人が任意後見人の仕事をチェックし、家庭裁判所に定期的に報告します(任意後見契約に関する法律7条)。西宮市にお住まいの方の申立先である神戸家庭裁判所尼崎支部を含め、神戸家庭裁判所の案内では、任意後見監督人には原則として弁護士・司法書士などの専門職を選ぶとされています。任意後見人が家族であっても、第三者の目が入ることになります。

違い5:費用の考え方

この記事では事務所の報酬は書きませんが、制度ごとにかかる費用の「種類」は次のとおりです。

  • 家族信託:信託契約書の作成、公正証書にする場合の公証役場の手数料、不動産を信託する場合の登記の費用(登録免許税など)。始めるときにまとまってかかり、続くあいだは、信託監督人などを置かなければ、裁判所関係の費用はかかりません
  • 任意後見:契約時の公正証書の手数料。効力を生じさせるときの家庭裁判所への申立ての費用(神戸家庭裁判所の案内では、収入印紙800円分、後見登記手数料の収入印紙1,400円分、郵便切手。鑑定をする場合はその費用)。始まった後は、任意後見監督人の報酬が、家庭裁判所が決めた額で本人の財産から支払われます。任意後見人の報酬は、契約で決めます

「始めるときの費用」と「続くあいだの費用」を分けて考えると、比べやすくなります。家族信託の注意点や費用の考え方は、次の記事でも説明しています。

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3. どんなご家庭にどちらが合うか

家族信託が合いやすいご家庭

  • 実家や預金について、親子である程度話し合えている
  • 受託者になる子がいて、きょうだいの関係も良い
  • 将来、実家を売って施設の費用に充てる、建て替える、貸すなど、不動産を動かす予定がある
  • 裁判所の手続きより、家族の中で柔軟に財産を動かしたい

西宮市でも、親の実家を「空き家にしたくない」「売って施設の費用に回したい」というご相談があります。親が認知症になってからでは、実家の売却が難しくなることがあります。不動産を動かす予定がはっきりしているご家庭では、家族信託が候補になります。

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任意後見が合いやすいご家庭

  • 将来の介護サービスや施設入所の手続きまで、法的な権限をもって任せたい
  • 子が遠方に住んでいて、日々の見守りや手続きを家族だけで担うのが難しい
  • 家族の間で介護の方針がまとまらないことが心配で、第三者のチェックがほしい
  • 一人暮らしで、頼れる家族がいない、または家族に頼みたくない

頼れる家族がいない場合は、専門職や法人に任意後見人を頼む方法もあります。次の記事で詳しく説明しています。

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不安の種類で考える

いちばんの心配向いている制度
実家の売却・管理家族信託
介護や施設の手続き任意後見
子が遠方で、見守る人がいない任意後見(監督人のチェックがある)
家族の仲が良く、財産を柔軟に動かしたい家族信託
財産も暮らしも両方心配家族信託と任意後見の併用

どちらが正解ということはありません。「わが家がいちばん心配していることは何か」から考えると、選びやすくなります。

4. 家族信託と任意後見を組み合わせる考え方

足りないところを補い合う

家族信託と任意後見は、どちらか一方を選ぶものとは限りません。

  • 実家と、まとまった預金の一部は家族信託で子に託し、売却や管理を柔軟にできるようにしておく
  • 信託しない預金、年金、介護や施設の契約などは、任意後見でカバーする

このように組み合わせると、家族信託ではできない身上監護と、任意後見では動かしにくい不動産の管理を、それぞれの仕組みで補えます。

組み合わせるときの注意点

  • 受託者と任意後見人を同じ子にするか、別の人にするかを考えます。同じ人にすると手続きは分かりやすくなりますが、任意後見監督人が、信託の財産の動きにも目を向けることがあります
  • 信託した財産と、信託していない財産を、どちらの仕組みで管理するのかを、契約の段階ではっきり分けておきます
  • 本人が亡くなった後の財産の行き先は、信託した財産なら信託契約で決めておけます(信託法182条)。信託していない財産は遺言で決めることになるため、遺言との組み合わせも一緒に考えます
  • 任意後見は委任の契約なので、本人が亡くなると終わります(民法653条1号)。葬儀や納骨、病院・施設の精算などを頼みたい場合は、死後事務の契約も検討します
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当事務所の方針:司法書士は受託者になりません

家族信託の受託者には、信頼できる親族などになっていただく形を前提にしています。当事務所では、司法書士が家族信託の受託者になることはしていません。信託の設計、契約書の案づくり、信託の登記などでお手伝いします。

5. 2026年の改正で任意後見はどう変わるか(施行前)

2026年6月17日に、成年後見と遺言の制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。成年後見の制度の見直しは、公布から2年6か月以内の政令で定める日から施行されます。2026年10月時点では施行日は決まっておらず、今の任意後見の制度がそのまま使われています。

法務省の概要によると、任意後見について主に次の見直しがされています。

見直しの内容今の制度改正後(施行後)
任意後見監督人監督人が選ばれて初めて任意後見が始まる家庭裁判所が、監督人による監督の必要がないことが明らかと認めるときは、監督人を選ばず、家庭裁判所が直接監督することができる
法定後見(補助)との関係任意後見が始まった後に法定後見が始まると、任意後見契約は終わる(任意後見契約に関する法律10条3項)補助の制度を使い始めても、任意後見契約が続くことを認める
任意後見人を複数頼む場合頼んだ人が亡くなったときなどに備えて、次の人に引き継ぐ仕組みがない本人と任意後見受任者との間で、任意後見契約の効力を生じさせる順序を決めておく合意ができる
始めるための申立て本人・配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者だけが申し立てられる本人が公正証書で指定した人も、任意後見契約を始めるための申立てができる

あわせて、法定後見は、後見・保佐を廃止して「補助」に一本化され、必要がなくなったときに利用を終えられるようになります。法定後見の改正については、次の記事で詳しく説明しています。

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今、任意後見契約を結ぶとどうなるか

法務省の概要では、施行日より前に結ばれた任意後見契約にも、施行後は改正後の法律が適用され、改正前に生じた効力はそのまま維持されるとされています(改正法附則6条)。施行を待たずに、今の制度で契約を結んでおくこともできます。

ただし、改正後の新しい仕組み(効力を生じさせる順序の合意など)を契約の中でどう使えるかは、施行に向けた細かいルールが出てから確かめる必要があります。

6. 検討を始めるときの手順

  1. 心配ごとを書き出す:実家をどうしたいか、介護や施設のこと、預金や年金の管理など、ご本人とご家族の心配を書き出します
  2. 財産を一覧にする:不動産、預金、保険、年金などを書き出し、信託したい財産と、そうでない財産を分けて考えます
  3. 任せる人を考える:受託者や任意後見人をお願いしたい人、その人が引き受けられるか、きょうだいの理解が得られるかを確かめます
  4. ご本人の気持ちを確かめる:どちらの制度も、ご本人が内容を理解して決めることが前提です。判断する力が落ちてからでは、契約を結べないことがあります
  5. 制度を選ぶ・組み合わせる:家族信託、任意後見、遺言、死後事務の契約などを、どう組み合わせるかを決めます
  6. 契約書を作る:任意後見は公正証書で、家族信託も公正証書で作ることが多いです。不動産を信託する場合は、信託の登記をします

よくある質問

家族信託と任意後見の違いを、ひとことで言うと何ですか?

家族信託は「信託した財産の管理・処分」を家族に任せる仕組みで、契約した時から始まり、裁判所の監督はありません。任意後見は「財産の管理と暮らしの手続き」を任せる仕組みで、判断する力が落ちて家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から始まります。

家族信託をすれば、任意後見はいりませんか?

いらないとは限りません。家族信託では、施設の入所契約や介護サービスの契約などの暮らしの手続きはできず、信託していない財産や年金の手続きも対象外です。こうした手続きが心配な場合は、任意後見を組み合わせることを考えます。

任意後見人を家族にしても、監督人の報酬はかかりますか?

今の制度では、任意後見は任意後見監督人が選ばれて始まり、その報酬は家庭裁判所が決めた額で本人の財産から支払われます。2026年の改正後は、監督の必要がないことが明らかなときに監督人を選ばない場合がありますが、施行日はまだ決まっていません。

司法書士に家族信託の受託者を頼めますか?

当事務所では、司法書士が家族信託の受託者になることはしていません。受託者には、信頼できる親族などになっていただき、当事務所は信託の設計、契約書の案づくり、信託の登記などでお手伝いします。頼れる家族がいない場合は、任意後見など別の方法を一緒に考えます。

親が認知症と言われました。今からでも間に合いますか?

家族信託も任意後見も契約なので、ご本人が内容を理解して決められることが必要です。診断を受けていても、症状の程度によっては契約できる場合もあります。判断が難しいときは、早めにご相談ください。契約が難しい場合は、法定後見(改正後は補助)を検討することになります。

まとめ

家族信託は、信託した財産を家族が柔軟に管理・処分できる仕組みで、元気なうちから始められます。任意後見は、財産の管理に加えて、施設や介護の契約など暮らしの手続きまで任せられる仕組みで、家庭裁判所が任意後見監督人を選んでから始まります。

「実家をどうするか」が大きな課題なら家族信託、「暮らし全体を支えてほしい」なら任意後見が候補になります。両方を組み合わせて、足りないところを補う方法もあります。2026年の改正で任意後見は使いやすくなる見込みですが、施行日はまだ決まっていません。どちらの制度も、ご本人が元気なうちにしか結べない契約です。

家族信託と任意後見のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。ご家族の心配ごとの整理から、制度の組み合わせ方のご提案、信託契約書や任意後見契約の案づくり、信託の登記、家庭裁判所に出す任意後見監督人選任の申立書の作成(司法書士法3条1項4号)まで、順を追ってご案内します。

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出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

西宮・芦屋・宝塚・尼崎エリアで司法書士・行政書士をお探しなら、シアエスト司法書士・行政書士事務所へお任せください。

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