※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「この子が、だまされて高い契約をさせられないだろうか」
「気がついたら借金がふくらんでいた、ということにならないだろうか」
「私たちが亡くなった後、誰がお金の管理を手伝ってくれるのだろう」
発達障害(ASDやADHDなど)のあるお子さんを持つ親御さんから、こうした心配をお聞きすることがあります。
この記事では、成人した発達障害のある方が契約トラブルにあったときに「取り消せるのか」、お金の使いすぎや借金を防ぐためにどんな仕組みがあるのか、そして親なきあとに向けて親御さんが今できることを、順番にお話しします。
先に結論:「取り消せる場面」を知り、「守る仕組み」を早めにつくる
- 発達障害の診断があるだけでは、契約は無効になりません。無効や取消しになるのは、法律に決まった場面に当てはまるときです
- 訪問販売やマルチ商法などはクーリングオフができ、不安をあおる勧誘や、好意につけこむ勧誘(デート商法)は、消費者契約法で取り消せる場合があります。困ったら、消費者ホットライン「188」へ
- 借金を防ぐには「貸付自粛制度」、日々のお金の管理には社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」が使えます
- あとから取り消せる仕組みが必要なら、家庭裁判所の「補助」「保佐」を考えます。2026年6月に成立した改正法で、将来は「補助」に一本化され、必要な事柄だけを支える形に変わります
- 親御さんは、遺言で遺産分割の話し合いをなくし、お金を「少しずつ渡す」仕組みを残しておくと、親なきあとの負担を小さくできます
1. 発達障害があるだけでは、契約は無効になりません
契約を「なかったこと」にできる主な場合
発達障害のある方の多くは、日常の買い物や手続きは自分でできます。法律も、診断名だけで契約の効力を左右することはしていません。契約を無効にしたり、取り消したりできるのは、次のような場合です。
| 場合 | どうなるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 契約の時に、契約の意味を理解する力(意思能力)がなかった | 無効 | 民法3条の2 |
| 契約の時に18歳未満だった(親の同意なし) | 取り消せる | 民法5条 |
| だまされた・おどされた | 取り消せる | 民法96条 |
| 大事な点について思い違いをしていた | 取り消せる場合がある | 民法95条 |
| 事業者の不当な勧誘で契約した | 取り消せる場合がある | 消費者契約法4条 |
| 訪問販売・電話勧誘・マルチ商法など | クーリングオフができる | 特定商取引法9条ほか |
| 後見・保佐・補助を受けていて、その範囲の契約だった | 取り消せる | 民法9条・13条・17条 |
「意思能力がなかった」と認めてもらうには、契約の時の状態を医師の意見書などで示す必要があり、ハードルは高めです。実際には、このあと説明するクーリングオフや消費者契約法の取消しのほうが使いやすい場面があります。
18歳からは「未成年者取消し」が使えません
2022年4月から、成年年齢は18歳になりました(民法4条)。18歳・19歳の方は、親の同意なしで結んだ契約でも、未成年者であることを理由に取り消すことはできません。
高校卒業前後は、スマートフォンの契約、クレジットカード、ネットでの高額な買い物、友人や先輩からのもうけ話の誘いなど、お金の場面が一気に広がる時期です。お子さんが18歳になる前に、「契約書にサインする前に一度相談する」「その場で決めない」といった約束を、家族で話しておくと安心です。
2. 契約トラブルにあったときの、取消しと解除の方法
クーリングオフ(理由がなくてもやめられる)
次の取引は、契約書などを受け取った日から一定の期間内なら、理由を問わず契約をやめられます。やめるときは、期間内に書面または電子メールなどで通知します。
| 取引の種類 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 訪問販売(自宅への訪問、路上で呼び止めて店へ連れて行く勧誘など) | 8日 | 特定商取引法9条 |
| 電話勧誘販売 | 8日 | 特定商取引法24条 |
| エステ・語学教室・学習塾・結婚相手紹介サービスなど(特定継続的役務提供) | 8日 | 特定商取引法48条 |
| マルチ商法(連鎖販売取引) | 20日 | 特定商取引法40条 |
| 「仕事を紹介する」と言って教材などを買わせる取引(業務提供誘引販売取引) | 20日 | 特定商取引法58条 |
| 携帯電話・光回線など一部の通信契約(初期契約解除) | 8日 | 電気通信事業法26条の3 |
ネット通販(通信販売)には、クーリングオフはありません。ただし、お店が返品のルールを表示していなければ、商品を受け取ってから8日以内は返品できます(特定商取引法15条の3)。
消費者契約法で取り消せる勧誘
事業者の勧誘のしかたに問題があったときは、消費者契約法で取り消せる場合があります(消費者契約法4条)。発達障害のある方がまきこまれやすい場面と重なるものを挙げます。
- うそを言われた・「必ずもうかる」と断定された:事実と違う説明や、将来のもうけを断定する説明を信じて契約した場合
- 帰してもらえなかった:「帰りたい」と言ったのに帰らせてもらえなかった場合や、家に居座られた場合
- 就職などの不安をあおられた:社会経験が少ないことにつけこみ、就職や生活の不安をあおって「この講座が必要」と言われた場合
- 好意につけこまれた:勧誘する人に好意を持っていることを知りながら、「契約しないと関係が終わる」と言われた場合(いわゆるデート商法)
- 量が多すぎる契約:本人にとって通常の量を大きく超えると、事業者が知りながら勧誘した場合
取り消せる期間は、だまされたと気づいた時などから1年、契約から5年です(消費者契約法7条)。訪問販売などで、日常生活に必要な量を大きく超える商品を買わされた場合は、契約から1年以内なら解除できる決まりもあります(特定商取引法9条の2)。
困ったら、まず「188」へ
「おかしいかもしれない」と思ったら、消費者ホットライン「188(いやや)」に電話すると、お住まいの地域の消費生活センターにつながります。クーリングオフの期間は短いので、迷ったら早めに相談することが大切です。
ご本人が自分から相談するのが苦手な場合は、ご家族が一緒に電話したり、支援者に同席してもらったりしてもかまいません。
3. 借金・お金の使いすぎを防ぐ仕組み
貸付自粛制度:借金の申込みにブレーキをかける
「ほしいものがあると、すぐ借りてしまう」という心配がある場合は、「貸付自粛制度」があります。ご本人が日本貸金業協会か全国銀行個人信用情報センターに申し出ると、その情報が信用情報機関に登録され、貸金業者や銀行が貸付けを判断する際の材料になります。
- 登録期間:申告した日から5年を超えない期間
- 撤回:原則として、申告から3か月たつまではやめられません
- 申告できる人:原則としてご本人です。保佐人・補助人(借金について同意権がある場合)など法定代理人も申告できます
- 注意点:登録しても、貸付けが断られるとは限りません
ご本人が「自分で自分を守る」ための仕組みなので、本人とよく話し合ったうえで使うのが基本です。
日常生活自立支援事業:社会福祉協議会がお金の管理を手伝う
「家賃や公共料金の支払いを忘れる」「生活費の配分が苦手」という場合は、市区町村の社会福祉協議会(社協)が行う「日常生活自立支援事業」が使えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 知的障害・精神障害・認知症などで判断に不安がある方。ただし、この事業の契約内容を理解できることが必要 |
| 手伝ってもらえること | 福祉サービスの利用の手伝い、預金の出し入れなど日常的なお金の管理、通帳など大切な書類の預かり |
| 利用料 | 社協ごとに決まります。訪問1回あたり平均1,200円が目安。生活保護を受けている方は無料 |
| 窓口 | お住まいの市区町村の社会福祉協議会 |
ご本人が社協と契約して使う仕組みなので、本人の「使ってみたい」という気持ちが出発点になります。
なお、2026年6月に社会福祉法等の改正法(令和8年法律第51号)が公布され、身寄りのない高齢者や判断能力が不十分な方に、日常生活の支援・入院の手続きの支援・亡くなった後の事務の支援を行う事業を、社会福祉事業として位置づける見直しが進んでいます。今の日常生活自立支援事業との関係や始まる時期は、今後の国の案内を確かめる必要があります。
借金がふくらんでしまったら
すでに返せないほどの借金がある場合は、ひとりで抱えずに相談してください。
- 債務整理:任意整理・個人再生・自己破産などで、返済の負担を見直す方法があります。司法書士・弁護士に相談できます
- 家計の立て直し:生活困窮者自立支援制度の「自立相談支援機関」(市区町村の窓口)では、家計の見直しの相談にものってもらえます
- 費用が心配なとき:収入などの条件を満たせば、法テラスの費用の立替えを使える場合があります
4. 「取り消せる」形にするなら、補助・保佐を考える
今の制度:補助と保佐
これまでの章の方法は、トラブルが起きた後に、決まった条件に当てはまるときだけ使えるものです。くり返し高額な契約をしてしまう場合などは、家庭裁判所に「補助」や「保佐」を申し立てて、支援する人(補助人・保佐人)をつける方法があります。
| 項目 | 補助 | 保佐 |
|---|---|---|
| 対象 | 判断する力が不十分な方 | 判断する力が著しく不十分な方 |
| 本人の同意 | 申立てに本人の同意が必要(民法15条2項) | 申立てに本人の同意は不要 |
| 同意が必要な行為 | 借金・保証・不動産の売買など法律に定められた行為の中から、必要なものだけを選ぶ(民法17条) | 借金・保証・不動産の売買・相続の放棄など法律に定められた行為すべて(民法13条) |
| 取り消せる範囲 | 選んだ行為を、補助人の同意なしにしたとき | 上の行為を、保佐人の同意なしにしたとき |
| 日常の買い物 | 取消しの対象外 | 取消しの対象外 |
補助は、本人の同意のもとで「借金だけ」「高額な契約だけ」と支援の範囲をしぼれるので、日常生活は自分でできる方には合いやすい形です。2019年の法改正(令和元年法律第37号)で、後見・保佐を受けていることを理由に資格や仕事から一律に外す決まり(欠格条項)は削除され、必要な能力を個別に審査する形に改められました。
財産管理の契約・任意後見との違い
親族や専門家と「財産管理の委任契約」を結んで、通帳を預かってもらう方法もあります。ただし、取り消す力の有無が大きく違います。
| 仕組み | ご本人が結んだ契約を取り消せるか | 始め方 |
|---|---|---|
| 財産管理の委任契約 | 取り消せない。本人はいつでも契約をやめられる | 本人と契約 |
| 任意後見 | 取り消せない | 本人と公正証書で契約。判断能力が落ちて、家庭裁判所が監督人を選んでから始まる |
| 補助・保佐 | 範囲内なら取り消せる | 家庭裁判所に申し立てる |
任意後見は、成人したお子さん本人が契約する仕組みです。親御さんが代わりに結ぶことはできず、本人が内容を理解できることが前提です。
2026年の改正で「補助」に一本化されます
2026年6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)で、後見と保佐は廃止され、「補助」に一本化されます。本人に必要な範囲・期間だけ制度を使い、必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば利用を終えられる仕組みです。補助人には、本人の意向をつかむように努めることも、はっきり求められます。
施行は、公布から2年6か月以内の政令で定める日です。2026年10月時点ではまだ施行されておらず、それまでは今の制度のままです。「一度始めたらやめられない」という心配から利用をためらっていた方にとって、使いやすくなる方向の改正です。

5. 親なきあとに向けて、親御さんが今できること
遺言で「遺産分割の話し合い」をなくす
親御さんが亡くなると、遺言がなければ、相続人全員で遺産分割の話し合いをします。お子さんが内容を理解できない状態だと、話し合いを進めるために後見などの申立てが必要になることがあります。きょうだいが後見人になっていても、同じ相続人どうしなので、遺産分割では家庭裁判所に特別代理人を選んでもらう必要があります(民法860条・826条)。
遺言ですべての財産の分け方を決めておけば、この話し合いはいりません。遺言は、形式の不備で無効になる心配が少ない公正証書遺言をおすすめします。
なお、遺産分割の前でも、相続人は1つの銀行から一定額(上限150万円)までは単独で預金を引き出せます(民法909条の2)。葬儀費用などの当面のお金はまかなえることがありますが、手続き全体が進まないことに変わりはありません。

お金を「少しずつ渡す」仕組みを残す
まとまったお金を一度に渡すと、使い方の相談相手がいないまま、短い期間で減ってしまうおそれがあります。
- 家族信託:親御さんが元気なうちに、信頼できる親族などに財産を託し、お子さんの生活費として毎月決まった額を渡してもらう形をつくれます
- 遺言による信託:遺言で信託を定め、親御さんが亡くなった後に同じ形で管理してもらう方法もあります
どちらも、財産を管理する人(受託者)を誰にするかが一番の課題です。

きょうだいや、福祉のつながりも含めて考える
障害者扶養共済(しょうがい共済)、特定贈与信託、相談支援専門員とのつながり、きょうだいの負担を軽くする方法は、こちらの記事でくわしく説明しています。

福祉サービスの種類や利用の流れは、こちらの記事にまとめています。

6. 「管理」は、本人の暮らしを支えるための道具です
お金の管理や制度の利用は、ご本人を縛るためのものではありません。家賃や公共料金を払って暮らしの土台を守り、そのうえで趣味や楽しみに使えるお金を確保するための道具です。
どの方法が合うかは、お子さんの特性、今の生活、ご本人の希望によって変わります。大切なのは、ご本人の「こうしたい」という気持ちを聞きながら、使う仕組みを一緒に選ぶことです。
よくある質問
- 発達障害がある人が結んだ契約は、無効になりますか?
-
診断があるだけでは無効になりません。契約の時に契約の意味を理解する力がなかった場合は無効ですが、その証明は簡単ではありません。クーリングオフや消費者契約法の取消しなど、使える方法がないか先に確かめます。
- 18歳の子どもが、親に黙って高額な契約をしてしまいました。取り消せますか?
-
18歳からは成年なので、未成年者であることを理由には取り消せません。訪問販売やマルチ商法ならクーリングオフ、不安をあおる勧誘やデート商法なら消費者契約法の取消しができる場合があります。早めに「188」へ相談してください。
- ADHDでお金の管理ができません。どんな支援がありますか?
-
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で、預金の出し入れや支払いの手伝いを受けられます。借金を防ぎたい場合は貸付自粛制度、あとから契約を取り消せる仕組みが必要なら、家庭裁判所の補助を考えます。
- 発達障害のある子の借金を、親が返さなければいけませんか?
-
成人した子どもの借金を、親が返す法律上の義務はありません。ただし、親が保証人になっている場合は別です。返済が難しい場合は、債務整理を含めて司法書士・弁護士に相談してください。
- 補助を使うと、仕事や資格に影響しますか?
-
2019年の法改正で、後見・保佐を受けていることを理由に資格や仕事から一律に外す決まりは削除され、個別に審査する形になりました。補助は本人の同意のもとで支援の範囲をしぼれるので、日常生活への影響も小さくできます。
まとめ
発達障害があるだけでは、契約は無効になりません。ただ、クーリングオフや消費者契約法など、取り消したり、やめたりできる場面はいくつもあります。困ったときは、まず「188」に相談してください。
そのうえで、借金を防ぐ貸付自粛制度、日々のお金を手伝う日常生活自立支援事業、あとから取り消せる補助・保佐と、守る仕組みにはいくつかの段階があります。2026年の改正で、成年後見の制度は「必要な分だけ使う」形に変わろうとしています。親御さんがお元気なうちに、遺言や信託で「お金を少しずつ渡す仕組み」も整えておくと、親なきあとの心配を小さくできます。
発達障害のあるお子さんの金銭管理や、親なきあとに向けた遺言・信託・後見のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。お子さんの特性やご家庭の事情をうかがいながら、ご本人の暮らしに合う仕組みを一緒に考えます。
出典・参考
- 民法 3条の2・4条・5条・9条・13条・15条・17条・95条・96条・826条・860条・909条の2(e-Gov法令検索)
- 消費者契約法 4条・7条(e-Gov法令検索)
- 特定商取引に関する法律 9条・9条の2・15条の3・24条・40条・48条・58条(e-Gov法令検索)
- 電気通信事業法 26条の3(e-Gov法令検索)
- 任意後見契約に関する法律 2条・4条(e-Gov法令検索)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/chiiki-fukusi-yougo
- 全国銀行個人信用情報センター「貸付自粛制度」https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/selfcontrol

