
※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。
「数年前に、父と兄との間で家族信託の契約をしました。ところが、受託者の兄が体を壊してしまって……。契約の中身を変えることはできるんでしょうか。」
家族信託は、10年、20年と続くことも珍しくない契約です。その間には、受託者の病気、実家の売却、お孫さんの誕生や家族の離婚など、契約したときには思ってもみなかったことが起こります。
先に結論をお伝えします。
家族信託の内容は、後から変えることができます。 ただし、誰が同意すれば変えられるのかは、法律の原則と、最初の契約書にどう書いたかで決まります。そして、親御さんが認知症になった後は、原則どおりのやり方では変えられなくなることがあります。
だからこそ、契約を作る段階で「変え方」まで決めておくことが大切です。この記事では、その考え方をやさしくお話しします。
結論:変えられます。カギは「誰が同意するか」
家族信託には、3人の登場人物がいます。
- 委託者(いたくしゃ):財産を預ける人。多くは親御さん
- 受託者(じゅたくしゃ):財産を預かって管理する人。多くはお子さん
- 受益者(じゅえきしゃ):財産から生まれる利益を受け取る人。多くは最初は親御さん
信託法は、信託の内容を変えることを「信託の変更」と呼び、そのやり方を定めています(信託法149条)。
ポイントは次の3つです。
- 原則は、3人全員の合意で変えられる
- 一定の場合には、もっと少ない人数で変えられる
- 契約書に「変え方」を書いておけば、そちらが優先される
ひとつずつ見ていきましょう。
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法律の原則:3人の合意で変えられます
信託法149条1項は、信託の変更は「委託者、受託者及び受益者の合意」によってできる、と定めています。変えるときは、変えた後の内容をはっきりさせておく必要があります。
親御さんが委託者と受益者を兼ねている、よくある形なら、親御さんと受託者のお子さんの2人が合意すれば変えられる、ということです。
少ない人数で変えられる場合もあります
法律は、次のような場合には、全員がそろわなくても変更できるとしています(信託法149条2項・3項)。
- 信託の目的に反しないことが明らかなとき:受託者と受益者の合意(変えた内容は委託者に知らせる)
- 信託の目的に反せず、受益者のためになることが明らかなとき:受託者だけの意思表示(変えた内容は委託者と受益者に知らせる)
- 受託者の利益を害しないことが明らかなとき:委託者と受益者から受託者への意思表示
ただ、「明らかなとき」かどうかは、後から争いになることもあります。実際には、できるだけ関係する人全員で合意し、書面に残しておくのが安心です。
いちばん大切なのは、契約書に「変え方」を書いておくこと
信託法149条4項は、ここまでのルールにかかわらず、信託の契約(信託行為)に別の定めがあれば、その定めによるとしています。
つまり、最初の契約書に「この信託は、◯◯と◯◯の合意で変更できる」と書いておけば、そのとおりに変えられるのです。
たとえば、次のような定め方が考えられます。
- 「受託者と受益者代理人の合意で変更できる」
- 「受託者と信託監督人の合意で変更できる」
- 「ただし、次の受益者を変えることや、信託を終わらせる時期を変えることはできない」
受益者代理人(じゅえきしゃだいりにん)は、受益者に代わって権利を使う人です(信託法138条・139条)。信託監督人(しんたくかんとくにん)は、受益者のために受託者を見守る人です(信託法131条)。どちらも、契約で前もって決めておくことができます。
「受託者だけで何でも変えられる」は危ういことも
反対に、「受託者が一人で自由に変更できる」としてしまうと、受託者の都合で中身が変えられてしまうおそれがあります。ほかのご家族から見れば「兄が勝手に変えた」と映り、もめごとの種にもなりかねません。
変更のしやすさと、勝手に変えられない安心感。そのバランスをどう取るかは、ご家族の状況によって変わります。
親御さんが認知症になった後は、どうなる?
ここが、ご家族にとって最も気になるところだと思います。
親御さんが委託者と受益者を兼ねている場合、親御さんが認知症で判断する力を失うと、合意をすることができません。 判断する力がない状態でした意思表示は、無効とされているからです(民法3条の2)。
そうなると、
- 3人の合意(149条1項)は、できない
- 受託者と受益者の合意(149条2項1号)も、受益者が親御さんなので、できない
ということになり、法律の原則どおりのやり方では、変更が難しくなります。
契約で備えておけば、変更できる道が残ります
ここで役に立つのが、先ほどの「契約書に変え方を書いておく」ことです。
たとえば、受益者代理人を決めておき、「受託者と受益者代理人の合意で変更できる」としておけば、親御さんが認知症になった後も、受益者代理人が親御さんに代わって変更に関わることができます。
裁判所に変更してもらう方法も、ありますが……
信託法150条には、裁判所が信託の変更を命じる仕組みもあります。ただしこれは、契約のときに予想できなかった特別な事情によって、管理のやり方に関する定めが受益者のためにならなくなった場合に限られています。
「次に財産を受け取る人を変えたい」といった、管理のやり方以外の変更には使えません。また、裁判の手続きには時間も手間もかかります。あくまで最後の手段と考えておいたほうがよいでしょう。
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よくある「変えたい」場面ごとの考え方
場面① 受託者が病気になった・亡くなった
受託者のお子さんが亡くなったときなどは、受託者の役目は終わります(信託法56条1項)。そのとき、契約書で次の受託者(後継の受託者)を決めておけば、その人が引き継ぐことができます。
決めていない場合は、委託者と受益者の合意で新しい受託者を選びます(信託法62条1項)。親御さんが認知症で合意できなければ、裁判所に選んでもらうことになります(同条4項)。
一方、受託者が病気になっても、それだけでは役目は終わりません。自分から辞めるには、原則として委託者と受益者の同意が必要です(信託法57条1項)。親御さんが同意できない状態なら、やむを得ない事情があるときに、裁判所の許可を得て辞めることになります(同条2項)。ですから、「どんなときに受託者が交代するか」「辞めるときはどうするか」も、契約書に書いておくことが大切です。
なお、受託者が後見開始または保佐開始の審判を受けたことも役目が終わる理由のひとつですが(信託法56条1項2号)、2026年6月に成立した成年後見制度の見直しにあわせて、この部分は「特定補助人を付する処分の審判を受けたこと」に改められます。施行は2028年12月までの予定です。
場面② 実家を売ることになった
信託法では、受託者には、信託の目的のために財産を管理・処分する権限があり、契約でその権限を制限することもできます(信託法26条)。ですから、信託に入れた不動産を売ること自体は、契約で制限していなければ、信託の変更をしなくてもできます。売ったお金は、そのまま信託の財産になります(信託法16条1号)。
ただ、実務では、売却できることを契約書にはっきり書いておくのが一般的です。「売るときは◯◯の同意が必要」などと定めた場合は、その定めに従います。契約を作るときに、「この家を売る可能性はあるか」を一度考えておくと安心です。
場面③ 財産を追加したい
あとから財産を信託に追加すること(追加信託)もできます。ただ、財産を入れるのは委託者である親御さんの行為なので、親御さんに判断する力があるうちにしか、できません。 追加の予定がある財産は、元気なうちに入れておきましょう。
場面④ 次に受け取る人を変えたい
「親が亡くなった後の受益者を、長男から孫に変えたい」というように、受益者を変えたい場合もあります。
契約で「受益者を変える権利(受益者変更権)」を持つ人を決めておけば、その人の意思表示で変えられます(信託法89条)。ただし、受益者が変わると、新しく受益者になった人に贈与税や相続税がかかることがあります(相続税法9条の2)。また、ほかのご家族の遺留分にも関わってきます。
税金と遺留分の両方を確かめたうえで、慎重に進める必要があります。
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変更したら、登記も変えます
信託に不動産が入っている場合、登記簿には「信託目録(しんたくもくろく)」という、信託の中身をまとめた記録が付いています。委託者・受託者・受益者の名前と住所、信託の目的、管理の方法、終わる理由などが載っています(不動産登記法97条)。
ここに載っている内容が変わったときは、受託者が、遅れることなく変更の登記を申請しなければなりません(不動産登記法103条)。たとえば、
- 受益者が変わったとき
- 管理の方法や、信託が終わる理由の定めを変えたとき
- 受益者の住所が変わったとき
などです。
受託者が交代したときは、新しい受託者に名義を移す登記をします。前の受託者が亡くなったときなどは、新しい受託者が一人で申請できます(不動産登記法100条1項)。
登記を忘れていると、いざ売却や次の手続きをしようとしたときに、まず登記を直すところから始めなければならなくなります。変更があったら、早めに手続きをしておきましょう。
契約を作るときに、決めておきたいこと
当事務所で家族信託の契約書を作るときは、次のような「将来の変化」についても、ご家族と一緒に考えるようにしています。
- 誰と誰が合意すれば、内容を変えられるか
- 親御さんが認知症になった後、誰が親御さんに代わって関わるか(受益者代理人など)
- 受託者が亡くなったり、病気になったりしたら、次は誰か
- 不動産を売る可能性はあるか。売るときのルールはどうするか
- あとから追加する予定の財産はあるか
先のことを全部見通すことはできません。だからこそ、「変わったときにどうするか」を決めておくことが、長く使える信託につながります。
まとめ
- 家族信託の内容は、後から変えることができます。原則は委託者・受託者・受益者の合意です(信託法149条1項)
- 契約書に「変え方」を書いておけば、そのとおりに変えられます(同条4項)
- 親御さんが認知症になると、原則どおりのやり方では変えられなくなることがあります。受益者代理人などを決めておくと備えになります
- 裁判所による変更は、予想できなかった事情で管理のやり方を変える場合に限られます
- 受託者の交代・財産の売却・追加・受益者の変更は、それぞれ注意点が違います。受益者を変えると贈与税や相続税がかかることもあります
- 不動産が入っている場合は、内容が変わったら変更の登記が必要です
よくある質問
- 家族信託の契約は、一度結んだら変えられないのですか?
-
いいえ、変えられます。原則として、委託者・受託者・受益者の合意で変更できます(信託法149条1項)。契約書に変更の方法を定めておけば、その方法によります。
- 親が認知症になった後でも、信託の内容を変えられますか?
-
親御さんが委託者と受益者を兼ねている場合、親御さんが合意できないため、原則どおりのやり方では難しくなります。契約で受益者代理人を決め、「受託者と受益者代理人の合意で変更できる」などとしておけば、変更できる道が残ります。
- 受託者が亡くなったら、信託は終わってしまいますか?
-
受託者が亡くなっても、信託がすぐに終わるわけではありません。契約で次の受託者を決めておけば、その人が引き継ぎます。決めていない場合は、委託者と受益者の合意で選ぶか、裁判所に選んでもらうことになります。
- 信託に入れた実家を売るのに、契約の変更は必要ですか?
-
契約で売却を制限していなければ、変更は不要です(実務では、売却できることを契約書にはっきり書いておくのが一般的です)。売ったお金は信託の財産として受託者が管理します。
- 信託の内容を変えたら、何か手続きは必要ですか?
-
不動産が信託に入っていて、登記簿の信託目録に載っている内容が変わった場合は、受託者が変更の登記を申請する必要があります。また、受益者を変えると贈与税や相続税がかかることがあるので、事前に確認が必要です。
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出典・参考
- 信託法16条・26条・56条・57条・62条・89条・131条・138条・139条・149条・150条
- 民法3条の2(意思能力)
- 相続税法9条の2(贈与又は遺贈により取得したものとみなす信託に関する権利)
- 不動産登記法97条・100条・103条
- 法務省「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)」新旧対照条文(2026年6月)

