登記識別情報とは?権利証との違い・通数・使い方・なくしたときの対応を司法書士がやさしく解説

司法書士が解説する「登記識別情報(現代の権利証)の基礎知識」の図解。 3つのパネルで構成されている。 左のパネル「1. 登記識別情報とは?」では、昔の権利証のイラストから、現在の封筒に入った通知書と虫眼鏡で見る12桁のパスワードのイラストへ矢印が伸び、「紙ではなく、中の『12桁のパスワード』が本体」と説明。 中央のパネル「2. いつ使う?」では、売却・贈与のイラストに「必要なとき」の矢印、相続・住所変更のイラストに「不要」のバツ印が付き、「『人生の大きな節目』だけ。相続では原則不要」と説明。 右のパネル「3. 保管の鉄則」では、開封禁止、廃棄禁止、金庫と実印を分けるイラストがあり、「実印とは別の場所に、封を開けずに保管」と説明。 下部には司法書士のキャラクターが「再発行はできませんが、なくしても登記は可能です。将来のために、保管場所をご家族に伝えておきましょう」とアドバイスし、家族が金庫の場所を確認しているイラストが添えられている。
【図解】届いても開けないで!「現代の権利証」登記識別情報の正しい扱い方
目次

第1章 登記識別情報通知とは?まずここだけ知れば大丈夫です

不動産を手に入れたり、相続したりすると、数週間後に届く一通の書類――。
それが「登記識別情報通知」です。

突然届くこの書類を見て、「これは何?」「開けて大丈夫?」と不安になる方も多いのですが、まず最初に知っておいてほしいのは、次のひとことだけです。

これは、昔でいう“権利証”の現代版です。

かつては厚紙のようなしっかりした証書に朱印が押され、「登記済」と印字された、いかにも“権利書らしい権利書”が法務局から渡されていました。しかし時代とともに登記手続きが電子化され、紙の証書に代わって生まれたのが、この「登記識別情報」という仕組みです。

内容はとてもシンプルで、たった12桁のパスワードです。
不動産ごと、名義人ごとに発行されるもので、その数字やアルファベットの組み合わせが、いわば“あなたが所有者であることを証明する鍵”になります。

ただし、この“鍵”自体は外から見えないようになっています。

A4サイズ1枚の紙の中に折り込まれていたり、目隠しシールが貼られていたりして、「勝手に開けないでくださいね」というメッセージを感じるつくりになっています。これは、パスワードが盗まれないようにするための仕組みです。

登記識別情報通知の開封前の状態。目隠しシールが貼られたA4用紙。
開封前の登記識別情報通知。中の12桁の番号が見えないように目隠しされています。
登記識別情報通知を開封し、12桁の登記識別情報が見えている状態。
開封後の登記識別情報通知。内部に12桁の識別番号が記載されています。

ここで誤解しやすいのが、「紙に価値があるのではなく、中身の12桁に価値がある」という点です。

昔の権利証は紙そのものが“証書”でしたが、今の登記識別情報はあくまでパスワードが本体。紙はそのパスワードを伝えるための「入れ物」にすぎません。ですから、少し折れてしまっても、紙がくしゃっとしても、効力が弱まることはありません。

ただし大切なのは、開けずに、失くさず、そっと保管しておくこと。
これだけです。

登記識別情報が必要になるのは、家を売ったり、誰かに贈与したりするとき。つまり、人生の中でもそう何度も訪れないタイミングです。だからこそ、いつどこにしまったのか忘れてしまう方がとても多いのです。10年先、20年先の“そのとき”のために、実印や印鑑証明とは別の場所で落ち着いて保管しておくと安心です。

「なんだか難しそうだ」と身構える必要はありません。
登記識別情報通知は、不動産を持った人なら誰にでも届く、とても普通の書類です。そして、そのまま封を開けずに大切にしまっておけば、それだけで役割の9割は果たせます。

では、この登記識別情報通知は「いったい何枚届くのか」「うちは1通だけでよかったのか」という疑問もよく聞かれます。次の章では、多くの方が迷う“通数”について、分かりやすく整理していきます。

第2章 登記識別情報は何通届く?通数の仕組みは、思ったよりシンプルです

登記識別情報通知が届いたとき、多くの方が最初に抱くのは「うちはこれで全部?」「もっと届くの?」という不安です。とくに、家や土地を複数持っていたり、共有名義だったりすると、「本当は何通あるのが正しいのか」が分かりにくくなります。

でも、登記識別情報の“通数のルール”は、とても素朴で分かりやすいものです。

結論からお伝えすると、登記識別情報は《不動産ごと》に、《名義人ごと》に発行されます。

まず「不動産ごと」というのは、たとえば自宅の土地と建物が別々の不動産番号になっているように、法務局ではひとつひとつが独立した財産として扱われているためです。同じ敷地の中にあっても、土地と建物は別のもの。そのため、「土地で1通」「建物で1通」というように、複数の通知が届くことがあります。

また、「名義人ごと」というルールもよくある迷いのポイントです。夫婦共有で家を購入した場合、登記では“半分ずつの所有者”として登録されます。そうすると、法務局は夫の分と妻の分を別々の所有権とみなし、それぞれに登記識別情報を発行します。1つの不動産なのに2通届く理由は、まさにここにあります。

こう聞くと少し複雑に思えるかもしれませんが、実際の生活に当てはめると、とても素朴な話です。

たとえば――
自宅のほかに細い私道の持分を持っている方は珍しくありません。この私道も立派な“ひとつの不動産”なので、自宅とは別に1通届きます。また、分譲マンションの場合も、部屋そのもののほかに「敷地権」という土地の持分がセットになっていることが多く、これもひとつの不動産として扱われますので、マンションを買ったのに2通届く、ということが起こります。

相続の場合も同じルールが続きます。相続によって土地を半分ずつ2回に分けて受け取るような場合には、その取得の都度、別々に登記識別情報が発行されます。「1回しか相続していないのに2通来た…」というご相談が多いのは、このような事情です。

こうして見ると、通数の仕組みはとてもシンプルで、「その不動産を、誰が、どれだけのタイミングで取得したか」これだけで決まっています。

迷ったときは、通数そのものに悩むより、
「その不動産はいくつあるのか」
「名義は誰と誰なのか」
と落ち着いて数えてみると、自然に答えが見えてきます。

そして――
たくさん届いたとしても、少ししか届かなかったとしても、大切なのは 「全部保管すること」。登記識別情報は、不動産を売ったり、担保に入れたりする“人生の大きな場面”で必要になります。多くても困ることはありませんし、少なくても「不足しているのでは?」と焦らなくて大丈夫です。落ち着いて数えてみれば、必ず理由が説明できます。

では、その登記識別情報は“いつ使うのか”。
実際の使い道や、保管で気をつけたいことを、次の第3章で分かりやすくご紹介します。

第3章 登記識別情報はいつ使う?人生の節目にそっと現れる書類です

登記識別情報通知は、届いたときには存在感があるのに、その後はしばらく姿を見せない書類です。「この先いつ必要になるの?」と不安に思われる方も多いのですが、登記識別情報が出番を迎えるのは、じつは人生の中でもほんとうに限られた場面だけです。

いちばんよく使われるのは、不動産の“名義を誰かに移すとき”。
家を売るとき、子どもや親族に贈与するとき、離婚の財産分与で名義を整理するとき。あるいは住宅ローンを組むときや、借り換えで抵当権を設定するときにも必要になります。

言い換えれば、「所有権に大きな動きがあるとき」だけ使う、とても特別な書類なのです。

一方で、よく誤解されるのが「相続のときにも必要なのでは?」という点です。
じつは、相続登記では登記識別情報は原則不要です。相続の場合は、戸籍や遺産分割協議書など、別の書類によって「誰が引き継ぐのか」を証明する仕組みになっているからです。同じように、住所変更や氏名変更の登記でも、この登記識別情報は使いません。

つまり、日常の細かな手続きで慌てる必要はありません。
登記識別情報は“人生の大きな場面だけに顔を出す”存在だと思っていただくと、気持ちがぐっと楽になります。

では、その大切な書類はどう保管すればよいのでしょうか。

結論はとてもシンプルです。
開けずに、捨てずに、そっとしまっておくこと。
これだけです。

登記識別情報は封がされた状態で届きますが、その封は“開けないほうが安全”という意味を持っています。中に記された12桁のパスワードは、一度見てしまうと他人に漏れる可能性があるため、封が閉じられたままのほうが安心なのです。

そしてもうひとつ大切なのが、実印とは別の場所に保管すること。
この2つがセットで悪用されるリスクを避けるためです。めったに使わない書類だからこそ、「どこにあるか覚えていない」というトラブルが本当に多いので、家族の誰かが分かるように“保管場所のメモ”だけは残しておくと安心です。

もし、うっかり開封してしまったらどうなるのでしょうか。

大丈夫です。
登記識別情報は、封を開けたからといってすぐに無効になるわけではありません。パスワード自体が残っていれば効力はありますし、目隠しシールを貼り直したり、封筒に入れ替えたりして保管することで、問題なく使えます。少し形が変わっても、昔の権利証のように「紙そのものに価値がある」わけではないので、慌てる必要はありません。

ただし、封を開けたことで“どこか不安が残る”という方も多いため、その場合は司法書士に相談し、より安全な保管方法を一緒に考えることもできます。

登記識別情報は、あなたの財産を守るための大切な鍵です。普段は眠ったままでよいのですが、人生の節目でそっと姿を現し、その役割をしっかり果たしてくれる存在です。

次の第4章では、この登記識別情報を「なくしてしまった」「もらっていない」「盗まれたかもしれない」と不安を抱いたとき、どう対処すればよいかを丁寧に解説していきます。

第4章 登記識別情報をなくした・もらっていない場合の対応

登記識別情報について、一番多いご相談が「なくしてしまいました」「そもそも届いていません」というものです。まず最初に知っておいてほしいのは、登記識別情報は再発行できないという事実です。これは全国共通のルールで、どんな理由があっても新しく作り直すことはできません。

こう聞くと「ではもう登記はできないの?」と心配になるのですが、安心してください。登記識別情報がなくても、登記はできます。そのための代わりの仕組みが、ちゃんと用意されています。

代表的なのが「事前通知制度」と呼ばれる方法です。法務局から本人へ確認書類が郵送され、それに返答することで本人確認を行う仕組みです。手間は少しかかりますが、登記ができなくなるようなことはありません。

規模の大きい売買や、決済日に確実に登記を通したい場合などは、司法書士が直接本人確認を行い「本人確認情報」という書類を作成する方法がよく使われます。これなら事前通知を待つ必要がなく、当日そのまま登記ができます。費用は多少かかりますが、確実性が高い方法です。

そして「公証人による本人確認」を利用する方法もあります。頻度は高くありませんが、選択肢の一つとして存在します。

また「盗まれてしまった」というケースでは、法務局に“不正登記防止申出”を出しておくことで、勝手に登記がされるのを防ぐことができます。これも安心していただきたいのですが、登記識別情報だけでは名義変更はできません。実印や印鑑証明書など、複数の書類が揃わなければ登記は受け付けられませんので、盗まれたからといってすぐに危険が生じるわけではありません。

こうして見ると「なくしてもなんとかなる」と思えるかもしれませんが、実際には手続きが増えたり、費用がかかったり、売買の日程を調整する必要が出てきたりと、余計な負担がどうしても伴います。だからこそ、登記識別情報通知は開けずに・捨てずに・静かに保管しておくこと。これが何より大切になります。

まとめ ――将来の安心のために、今日できることをひとつだけ

登記識別情報通知は、不動産を持つ人のもとに必ず届く、とても大切な書類です。とはいえ、日常生活で使うことはまずありませんし、数年、十数年と引き出しに入れっぱなしになる方がほとんどです。

だからこそ、「どこにしまったのか分からない」「気づけば開けていた」といった不安が起きやすい書類でもあります。

ですが、必要な知識はとてもシンプルです。

――開けずに、捨てずに、そっと保管すること。

そして、その場所を将来の家族が分かるようにしておくこと。

これだけで、登記識別情報が果たすべき役割のほとんどは満たされます。不動産は、大切な資産であると同時に、家族が守り受け継いでいくものでもあります。あなたが今日ほんの少しだけ整えておくだけで、未来の誰かが困らずにすみます。

この記事が、登記識別情報についての不安を少しでも軽くし、安心して保管に向き合えるきっかけになれば幸いです。

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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