ひきこもりの子の親亡き後に備える|8050問題で親が今できる生活費の残し方・後見・相談先【西宮の司法書士が解説】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

「私たちが亡くなったあと、この子はひとりで暮らしていけるのだろうか」

お子さんが長く家にこもりがちで、親御さんだけが社会との窓口になっている。そんなご家庭では、親御さんが年を重ねるほど、この心配が大きくなっていくのではないでしょうか。80代の親が50代の子の暮らしを支える「8050問題」という言葉も、よく聞かれるようになりました。

この記事では、中高年のひきこもりのお子さんを持つ親御さんに向けて、親亡き後に起こりやすいことと、生活費の残し方、後見の使い方、相談できる窓口を、順番にお話しします。

なお、この記事は、ひきこもりや、人との関係に強い不安を抱える状態(愛着の課題など)を、ご本人の性格や親の育て方のせいと決めつけるものではありません。診断の有無にかかわらず、「親がいなくなった後の暮らし」を一緒に考えるための記事です。

目次

先に結論:収入・お金の渡し方・手続きをする人の3つを決めておく

  • まず、お子さん本人の収入を確かめます。障害年金や生活保護などの公的な制度で、親の年金がなくなった後の暮らしを支えられるかを見ます
  • 親御さんの財産は、公正証書遺言で行き先を決め、遺言執行者を決めておきます。一度に渡すのが心配なら、信託や生命保険で「少しずつ渡す」形にできます
  • 任意後見は、お子さん本人が結ぶ契約です。本人が内容を理解し、結びたいと思えるときにだけ使えます。難しいときは、家庭裁判所の後見の制度を考えます
  • 親御さん自身の認知症や亡くなった後の手続きにも、任意後見や死後事務の契約で備えておきます
  • ひとりで抱えず、ひきこもりの相談窓口や地域包括支援センターに早めにつながっておくことが大切です

1. 親亡き後、ひきこもりの子に起こりやすいこと

中高年のひきこもりは、めずらしいことではありません

内閣府が2022年度に行った調査では、15歳から64歳の約50人に1人、全国で約146万人がひきこもりの状態にあると推計されています。40歳から64歳でも、割合は15歳から39歳とほぼ同じでした。ひきこもりは、若い人だけの問題ではありません。

起こりやすい困りごと

親御さんが亡くなったり、認知症で入院・入所したりすると、次のようなことが起こりやすくなります。

困りごと起こりやすいこと
収入が途絶える親の年金で暮らしていた場合、親が亡くなると、その年金は止まります
住まいの問題親名義の家は相続の手続きが必要です。相続登記は、相続を知った日から3年以内にしなければなりません(不動産登記法76条の2)
手続きができない死亡届、年金・保険・役所の手続き、公共料金や税金の支払いなどが、一度にお子さんにかかってきます
孤立親だけが社会との窓口だった場合、困っても誰にも相談できず、生活が立ち行かなくなるおそれがあります
勧誘や詐欺相続したお金をねらった勧誘にあうおそれがあります

「ひきこもり」と「判断能力」は別のことです

ここで大切なのは、ひきこもりの状態にあることと、判断する力が不十分なことは、別の問題だということです。多くの場合、お子さんは自分で考え、決める力を持っています。

そのため、「親の代わりに誰かが決める」仕組みを当てはめるのではなく、お子さん本人の気持ちを確かめながら、使える制度を選んでいく必要があります。この点が、後で説明する任意後見や法定後見の使い分けにも関わってきます。

2. まず「お子さん本人の収入」を確かめる

親亡き後の生活費を考えるとき、最初に確かめたいのは、親が残すお金よりも、お子さん本人が受けられる公的な制度です。

制度内容窓口
障害基礎年金病気やけがで生活に支障がある場合に支給。2026年4月分からの年額は2級847,300円、1級1,059,125円(昭和31年4月2日以後生まれ)年金事務所、市区町村の国民年金の窓口
障害福祉サービス・障害者手帳通院の費用の軽減、相談支援、グループホームなど市区町村の障害福祉の窓口
生活困窮者自立支援制度仕事や家計、住まいの相談市区町村の自立相談支援機関
生活保護ほかの方法をつくしても生活できないときの最後の支えお住まいの地域の福祉事務所

障害年金:ひきこもりの背景に病気があるとき

ひきこもりの状態そのものでは、障害年金は受けられません。ただ、背景にうつ病などの精神疾患や発達障害があり、その病気のために日常生活に大きな支障がある場合は、障害年金を受けられる可能性があります。

障害年金では、その病気で初めて医師にかかった日(初診日)がとても重要です。

  • 初診日が20歳より前:保険料を納めた期間は問われません。ただし、本人の所得による支給の制限があります
  • 初診日が20歳以後:初診日に国民年金などに加入していて、保険料を一定以上納めている(または免除を受けている)ことが必要です

長く受診していない場合もあるため、昔の受診の記録がどこにあるかを、親御さんが覚えているうちに整理しておくと役立ちます。手続きは、年金事務所や社会保険労務士に相談できます。

生活保護:親の財産を相続した後は

生活保護は、使える資産や能力などをすべて活用しても生活できないときに受けられる制度です(生活保護法4条)。親から家や預金を相続した場合は、まずそれを生活に充てることになります。相続した財産と生活保護の関係は、早めに福祉事務所に相談しておくと安心です。

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3. 親の財産を、生活費として残す方法

① 公正証書遺言で、行き先と手続きをする人を決める

遺言がなければ、相続人全員で遺産分割の話し合いをすることになります。お子さんがほかの相続人とやりとりするのが難しい場合、手続きがそこで止まってしまいます。

公正証書遺言で財産の行き先を決め、あわせて遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者が預金の解約や家の名義変更を進められます。お子さんの負担を大きく減らせる方法です。

遺言には、なぜこの分け方にしたのかを伝える「付言事項」を書き添えることもできます。法的な効力はありませんが、ほかのお子さんに親の思いを伝える手がかりになります。

② 信託で「少しずつ渡す」形にする

まとまったお金を一度に渡すと、使い方を相談できる相手がいないまま、短い期間で減ってしまうおそれがあります。そこで考えたいのが信託です。

方法仕組み
家族信託親御さんが元気なうちに、信頼できる親族などに財産を託し、お子さんの生活費として毎月決まった額を渡してもらう
遺言による信託遺言で信託を定め、親御さんが亡くなった後に、同じ形で管理してもらう(信託法3条2号)

どちらも、財産を管理する人(受託者)を誰にするかが一番の課題です。親御さんが亡くなった後も長く続く仕組みなので、受託者が先に亡くなった場合の後任も決めておきます。

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③ 生命保険の受取人をお子さんにする

死亡保険金は受取人のお金で、遺産分割の対象になりません。相続人が受け取る場合は「500万円×法定相続人の数」まで相続税がかかりません(相続税法12条1項)。

一度に受け取るのが心配な場合は、保険金を分割で受け取る特約や、保険会社・信託銀行などの「生命保険信託」(保険金を信託して少しずつ渡す商品)を扱っているところもあります。条件は会社ごとに違うので、加入している保険会社に確かめてください。

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④ 障害のあるお子さんなら、共済や特定贈与信託も

お子さんに障害がある場合は、親が亡くなった後に毎月の年金が届く「障害者扶養共済(しょうがい共済)」や、贈与税の非課税枠がある「特定贈与信託」も使えることがあります。これらの制度の内容は、6章で紹介する記事でくわしく説明しています。

4. 後見と任意後見:本人が結べる場合・結べない場合

任意後見は「お子さん本人」が結ぶ契約です

任意後見は、将来、判断する力が不十分になったときに、財産の管理や介護・施設の契約などを任せる人を、本人が元気なうちに決めておく契約です(任意後見契約に関する法律2条)。公証役場で公正証書にします。

成人したお子さんの任意後見契約は、お子さん本人が結びます。親御さんが代わりに結ぶことはできません。

場合考えられる方法
お子さんが内容を理解でき、本人も「結びたい」と思っている見守り契約・財産管理の委任契約・任意後見契約を組み合わせる
お子さんに判断する力はあるが、契約は望んでいない無理に結ぶことはできません。相談窓口とのつながりや、遺言・信託など親の側の備えを中心にする
お子さんに判断する力が不十分で、契約の内容を理解できない家庭裁判所の後見の制度(法定後見)を考える

任意後見が始まるのは「判断する力が不十分になったとき」

任意後見は、契約しただけでは始まりません。お子さんの判断する力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときに始まります(任意後見契約に関する法律4条)。親御さんが亡くなったときに、自動的に始まるわけではありません。

そのため、判断する力に問題がないお子さんの場合は、任意後見が始まらないまま、ということもあります。それまでの間は、見守り契約で定期的に連絡を取り合ったり、財産管理の委任契約で支払いなどを手伝ってもらったりして、関わりを続けておきます。ただし、財産管理の委任契約には、お子さんが結んだ契約を取り消す力はなく、お子さんはいつでも契約をやめられます。

本人が契約できないときは、法定後見

お子さんに判断する力が不十分な場合は、家庭裁判所に後見・保佐・補助を申し立てる方法があります。申立書には、後見人の候補者を書くこともできます。ただし、誰を選ぶかは家庭裁判所が決めるため、候補者が選ばれないこともあります。

2026年6月24日に公布された改正法(令和8年法律第45号)で、後見と保佐は廃止され、「補助」に一本化されます。本人に必要な範囲・期間だけ制度を使い、必要がなくなれば終えられる仕組みです。また、任意後見と補助の関係も見直され、補助が始まっても任意後見契約を続けられるようになります。施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日で、それまでは今の制度のままです。

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5. 親御さん自身の備えも忘れずに

8050問題では、お子さんより先に、親御さんの側に支えが必要になることもあります。親御さんが認知症になると、遺言も信託も、新しくは結べなくなります。

  • 親御さん自身の任意後見契約:判断する力が落ちたときに、財産管理や施設の契約を任せる人を決めておきます。お子さんに頼むのが難しい場合は、ほかの親族や専門家に頼むこともできます
  • 死後事務委任契約:葬儀や納骨、役所への届出、公共料金の解約などを、信頼できる人に頼んでおきます。死亡届は同居の親族などが出しますが(戸籍法87条)、お子さんがこうした手続きを担うのが難しい場合に役立ちます

お子さんと疎遠になっている親御さんにとっても、この2つは、ご自身の老後とその後を支える備えになります。

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6. きょうだいがいるご家庭へ

「親が亡くなったら、ひきこもりの兄弟の面倒をすべて見なければならないのか」と心配するきょうだいの方もいます。兄弟姉妹にも扶養の義務はありますが(民法877条)、自分の生活を犠牲にしてまで面倒を見る義務とは考えられていません。

きょうだいの負担を軽くする考え方や、しょうがい共済・特定贈与信託の内容は、こちらの記事でくわしく説明しています。

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7. ひとりで抱えないための相談先

親御さんがお元気なうちに、ご家族以外の相談先とつながっておくことが、親亡き後の一番の備えになります。

相談したいこと主な相談先
ひきこもりそのものの相談ひきこもり地域支援センター(都道府県・指定都市など)、市区町村のひきこもり相談の窓口
心の健康や病気の相談保健所、精神保健福祉センター
仕事・家計・住まいの相談市区町村の自立相談支援機関
親御さんの介護や暮らしの相談(65歳以上)地域包括支援センター
日々のお金の管理の手伝い社会福祉協議会(日常生活自立支援事業)
遺言・信託・後見・相続の手続き司法書士、弁護士

西宮市では、市の保健所(健康増進課)がひきこもりの電話相談・面接相談や、家族教室を行っています。全国の相談窓口は、厚生労働省のひきこもり支援のサイト「ひきこもりVOICE STATION」で探せます。

https://www.nishi.or.jp/kenko/shakaifukushi/chiikifukushi/hikikomorisoudan.html

お子さんが相談に行けなくても、まずは親御さんだけで相談してかまいません。親御さんが65歳以上なら、地域包括支援センターで親御さんの介護の相談をする中で、お子さんのことを話してみるのもひとつの方法です。

よくある質問

ひきこもりの子を残して親が亡くなったら、子どもはどうなりますか?

親の年金で暮らしていた場合は、その収入が止まります。親名義の家や預金は相続の手続きが必要になり、遺言がなければ相続人全員の話し合いが必要です。障害年金などの公的な制度の確認と、遺言・遺言執行者の指定をしておくと、お子さんの負担を減らせます。

親が子どもの代わりに任意後見契約を結べますか?

成人したお子さんの任意後見契約は、お子さん本人が結ぶものです。親御さんが代わりに結ぶことはできません。お子さんに契約の内容を理解する力がない場合は、家庭裁判所の後見の制度を考えます。

ひきこもりの子に、まとまったお金を残すのが心配です。

家族信託や遺言による信託で、信頼できる親族などに管理してもらい、毎月の生活費として少しずつ渡す形がつくれます。生命保険の分割受取や生命保険信託を使う方法もあります。

親が亡くなったら、ひきこもりの兄弟の面倒は、きょうだいが見なければいけませんか?

兄弟姉妹にも扶養の義務はありますが、自分の生活を犠牲にしてまで面倒を見る義務とは考えられていません。福祉の窓口や専門家の力を借りながら、できる範囲で関わる形で大丈夫です。

どこに相談すればいいか分かりません。

ひきこもりのことは、ひきこもり地域支援センターや市区町村の相談窓口へ。親御さんが65歳以上なら地域包括支援センターも窓口になります。遺言・信託・後見などの手続きは、司法書士にご相談ください。

まとめ

親亡き後のひきこもりのお子さんの暮らしを守るために大切なのは、①お子さん本人の収入を公的な制度で確かめること、②親の財産を遺言や信託で「少しずつ渡す」形にすること、③手続きを担う人と相談先を決めておくこと、の3つです。

任意後見はお子さん本人の意思が前提で、親御さんが代わりに結ぶことはできません。お子さんの気持ちを大切にしながら、親御さんがお元気なうちに、親の側でできる備えから始めてみてください。

ひきこもりのお子さんの親亡き後に向けた遺言・信託・後見のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。ご家族の状況をうかがいながら、お子さんの暮らしを支える仕組みを一緒に考えます。

出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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