親の土地に建てた子どもの家、家族信託をしたら住めなくなる?「タダで借りている土地」の落とし穴と対策【西宮の司法書士が解説】

親の土地に建てた子どもの家、家族信託をしたら住めなくなる?「タダで借りている土地」の落とし穴と対策

※本記事は2026年10月時点の情報に基づいて解説しています。

「結婚してすぐ、もう30年近く前に、父の土地に私の家を建てました。地代は払っていません。父も85歳になり、妹が中心になって家族信託をしようという話になっています。信託をすると、土地は妹の名義になるんですよね。私は、この家に住み続けられるのでしょうか。」

親御さんの土地に、お子さんが自宅を建てる。阪神間でもよくある住まい方です。そうしたご家庭から、家族信託のご相談をいただくと、このようなご不安をうかがうことがあります。

先に結論をお伝えします。家族信託をしたからといって、すぐに家を出なければならないわけではありません。 ただし、何も決めずに信託をすると、「タダで土地を借りている」というもともと弱い立場が、受託者の交代や信託の終わり、そして代替わりのたびに揺らいでしまいます。

大切なのは、信託契約の中に「この家に住み続けられる根拠」を書き込み、最後に土地を誰に渡すかまで決めておくことです。この記事では、その理由と具体的な対策を、順にお話しします。

目次

結論:住み続けられる根拠を、信託契約に書いておく

最初に、この記事の要点です。

  • 親の土地をタダで使っている状態は、法律では「使用貸借(しようたいしゃく)」と呼ばれ、借りている側の立場は強くありません
  • 家族信託をすると、土地の名義は受託者に移ります。そのとき、親との「タダで貸す」という約束が受託者にどう引き継がれるのかは、契約に書いておかないとはっきりしません
  • 特に注意したいのは信託が終わるときです。土地が別のきょうだいに渡ると、家が建っているのに土地を使う根拠がない、という状態になるおそれがあります
  • 対策は、信託契約に使用を認める定めを置くこと、使用貸借の契約書を作ること、そして信託が終わった後の土地の行き先を決めておくことです

親御さんが元気で、ご家族の仲がよい今のうちに決めておけば、どなたも困らずに済みます。

「タダで借りている土地」は、法律では「使用貸借」

親御さんの土地に、地代を払わずに家を建てて住んでいる。この状態は、法律では「使用貸借」にあたります。物をタダで貸し借りする約束のことです(民法593条)。

契約書がなくても、「使っていいよ」「ありがとう」という口約束だけで成り立ちます。親子の間では、ほとんどがこの形でしょう。

地代を払って借りる「賃貸借」(民法601条)と比べると、使用貸借には大きな違いがあります。

  • 借地借家法の保護がありません。 借地借家法で守られる「借地権」は、建物を建てるための地上権か賃借権に限られています(借地借家法2条1号)。タダで借りている場合は、ここに入りません
  • 土地の新しい持ち主には、主張できないと考えられています。 地代を払う借地なら、土地の上の建物を登記しておけば、土地の持ち主が代わっても借地権を主張できます(借地借家法10条)。一方、使用貸借の権利にはこうした仕組みがなく、土地が別の人のものになったとき、その人に「住まわせてもらう約束がある」と主張するのは難しいと考えられています

なお、地代は払っていなくても、土地の固定資産税くらいは親に渡している、というご家庭もあると思います。固定資産税などの税金に相当する額以下のお金を払っているだけなら、税金の取扱いの上では使用貸借として扱われます(国税庁の通達)。

使用貸借は、どんなときに終わる?

使用貸借が終わる場面は、民法で次のように決められています。

  • 期間を決めていたときは、その期間が来たとき(民法597条1項)
  • 期間は決めていないが、使う目的を決めていたときは、その目的に従った使用が終わったとき(同2項)。また、使うのに十分な期間がたったときは、貸主から契約を解除できます(民法598条1項)
  • 期間も目的も決めていないときは、貸主はいつでも解除できます(民法598条2項)
  • 借主が亡くなったとき(民法597条3項)

「家を建てるために貸した」のであれば、一般には「建物を所有する目的」があったと考えられます。そのため、貸主がいつでも明渡しを求められるわけではありません。ただし、長い年月がたち、当事者の関係が大きく変わったような場合には、「使うのに十分な期間がたった」として、貸主からの解除が認められることがあります(民法598条1項)。その判断では、たった年月だけでなく、タダで貸すことになった事情、その後の関係、土地の使い方、貸主が土地を必要とする度合いなどが比べられます。家がまだ使えることや、ほかに住む所がないことだけでは、守られるとは限りません。

借りている子が亡くなったら

気になるのは、民法597条3項の「借主の死亡で終わる」という決まりです。

建物を建てるために土地を貸した場合は、借主が亡くなっても当然には終わらず、借主の相続人が引き継ぐとする考え方があります。一方で、当事者の合意や事情によっては、借主の死亡で終わるとされることもあります。

つまり、お子さんが亡くなった後、その奥様やお孫さんが住み続けられるかどうかは、はっきりしないのです。

貸している親が亡くなったら

反対に、貸している親御さんが亡くなっても、使用貸借は終わりません。貸主の立場は、親御さんの相続人に引き継がれます。

家族信託をすると、何が変わる?

家族信託では、親御さん(委託者)が、土地の名義を受託者に移して管理を任せます。冒頭の例でいえば、土地の名義はお父様から妹さんに移ります。

ここで問題になるのが、お父様と息子さんとの「タダで貸す」という約束です。

相続であれば、亡くなった方の立場は相続人にそのまま引き継がれます。けれども、信託はお父様が生きているうちに土地を受託者へ移す仕組みで、相続とは違います。先ほどお話ししたとおり、使用貸借の権利は土地の新しい持ち主に主張できないと考えられているため、受託者が「タダで貸す」という約束をそのまま引き継ぐのかどうかは、契約に書いておかないとはっきりしないのです。

受託者は、受益者のために土地を管理する立場

もう一つ、受託者の立場の問題もあります。

受託者は、受益者(財産から利益を受け取る人。最初はお父様)のために、誠実に財産を管理する義務を負っています(信託法29条・30条)。土地を誰かにタダで使わせ続けることが、受益者のためになっているのか。受益者が代わった後に、そこを問われることがあり得ます。

住んでいる子自身が受託者になる場合

息子さんご自身が受託者になるケースもあるでしょう。この場合、受託者が、自分が預かっている土地をタダで使い続けることになります。

信託法は、受託者が信託財産と自分の利益がぶつかる行為をすることを、原則として禁じています(信託法31条1項)。ただし、信託契約で「その行為をしてよい」と定めておけば認められます(同条2項1号)。息子さんが受託者になるなら、ご自身が土地を使い続けることを、契約ではっきり認めておくことが大切です。

いちばん注意したいのは「信託が終わるとき」

家族信託は、たとえば「お父様とお母様が亡くなったら終わる」というように、いつか終わります。終わったときに残っている財産は、契約で決めておいた人(帰属権利者)に渡されます(信託法182条)。

もし、土地の帰属権利者が妹さんだったら、どうなるでしょうか。

信託が終わると、土地は妹さんのものになります。お兄様の家は、そのまま妹さんの土地の上に建っています。このとき、お兄様が土地を使い続けられる根拠は、とても弱くなります。 使用貸借の権利は、新しい持ち主に主張できないと考えられているからです。

今は仲のよいごきょうだいでも、20年、30年たてば事情は変わります。妹さんが亡くなり、土地を妹さんの夫やお子さんが相続することもあるでしょう。そのとき、「建物を壊して、土地を明け渡してほしい」と言われたら。あるいは、家を売ろうとしても、土地を使う権利がはっきりしない家は、買い手がつきにくくなります。

家族信託は、親御さんの財産を守るための仕組みです。その仕組みが、意図せずお子さんの住まいを不安定にしてしまうことがある。これが、親の土地に子の家が建っている場合の、一番の落とし穴です。

一方で、信託をせずにいると、親御さんが認知症になったとき、土地の契約ごとを親御さんご自身では決められなくなります。現在の制度では成年後見人を家庭裁判所に選んでもらうことになります(成年後見制度は、2026年6月に成立した法律で見直しが決まり、2028年12月までに新しい制度に移る見込みです)。だからこそ、信託をするなら「住まいの根拠」まで含めて設計することが大切なのです。

親御さんが認知症になったときの財産の凍結については、こちらの記事でお話ししています。

▶ あわせて読みたい:親が認知症になると、預金も実家も“凍結”される — 元気なうちにできる備え

住み続けるための対策

① 信託契約に「土地を使わせる」定めを置く

信託契約の中に、たとえば次のような趣旨を書いておきます。

  • 受託者は、この土地を、長男の自宅の敷地として無償で使わせること
  • 受託者が別の人に代わっても、同じ扱いを続けること
  • 長男が受託者になる場合は、長男自身が使い続けることを認めること

信託契約に書いておけば、受託者はその内容に従って財産を管理します。「受益者のためになっているのか」という疑問にも、「契約でそう決めてある」と答えられます。

② 使用貸借の契約書を作っておく

親子の間の口約束を、信託の前に書面にしておくことも大切です。

  • 使う目的(長男の自宅を建てて住むため)
  • 期間(建物が使えなくなるまで、など)
  • 借主が亡くなったときの扱い(相続人が引き続き使えるか)
  • 固定資産税などの負担

先ほどお話ししたとおり、借主が亡くなったときの扱いは事情によって変わります。だからこそ、当事者の意思を書面に残しておくことに意味があります。ただし、契約書を作っても、土地が別の人のものになったときに、その人に「住まわせてもらう約束がある」と主張できるようになるわけではありません。信託が終わった後のことは、次の③で決めておく必要があります。

③ 信託が終わった後の、土地の行き先を決めておく

いちばん確実なのは、信託が終わったときに、土地をその家に住んでいるお子さんに渡すと決めておくことです。土地と建物の持ち主が同じになれば、使う根拠の心配はなくなります。

その場合、ほかのきょうだいとのバランスは、預金や生命保険などで取ることを考えます。土地の価値が大きいときは、遺留分(法律で守られた最低限の取り分)にも注意が必要です。

▶ あわせて読みたい:家族信託で遺留分は避けられる?「実家は長男に」を信託で考えるときの注意点

④ 地代を払う「賃貸借」に切り替える場合は、税金に注意

地代を払う賃貸借にすれば、借地借家法で守られ、住み続ける根拠はずっと強くなります。

ただし、親子の間で地代を払う形に切り替えるときは、税金に注意が必要です。権利金を払う習慣のある地域で、権利金を払わずに地代だけを払う形にすると、地代の額によっては、借地権にあたる利益をもらったものとして、贈与税の問題が出ることがあります(国税庁の通達)。また、親御さんの側には地代の収入について所得税がかかります。

賃貸借への切り替えは、必ず事前に税理士に相談してください。

⑤ 信託とは別に、土地そのものを移すことも考える

親御さんがお元気なうちに、土地を住んでいるお子さんに贈与する、遺言で渡す、といった方法もあります。それぞれ税金のかかり方が大きく違うため、家族信託とどちらがよいかは、ご家庭ごとに比べて決めることになります。

▶ あわせて読みたい:「毎年110万円ずつ贈与」の節税、2024年からは効きにくい — 生前贈与の新ルール

税金はどうなる?使用貸借のままの場合

使用貸借のままであれば、税金の扱いは次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.4552、令和8年4月1日現在の法令等による)。

  • 贈与税:タダで土地を使う権利の価値はゼロとして扱われるため、お子さんに贈与税はかかりません
  • 相続税:親御さんが亡くなったとき、その土地は人に貸している土地としてではなく、自分で使っている土地と同じ評価(自用地評価)になります。貸している分の減額はありません

また、家族信託をしても、親御さんがご自身を受益者にしている間は、信託をしただけで贈与税がかかることはないとされています(相続税法9条の2の考え方)。

税金の扱いは、ご家庭の財産の状況で変わります。具体的な金額は、税理士にご確認ください。

当事務所でお手伝いするとき、最初に確認すること

当事務所では、親御さんの土地にお子さんの家が建っているご家庭の家族信託をお手伝いするとき、まず次のことを確認します。

  • 土地と建物の登記の名義(建物はお子さんの名義になっているか)
  • 地代や固定資産税のやりとりがあるか、口約束の内容はどうだったか
  • 受託者になる方と、家に住んでいる方の関係
  • 信託が終わった後、土地を誰に渡したいか
  • ほかのきょうだいとのバランスをどう取るか

「今住んでいる家族が、この先も安心して住めるか」を最初に考えたうえで、信託の形を一緒に決めていきます。

まとめ

  • 親の土地にタダで家を建てて住んでいる状態は「使用貸借」で、借地借家法の保護はなく、土地の新しい持ち主には主張できないと考えられています
  • 使用貸借は、借主の死亡で終わるのが原則です(民法597条3項)。建物を建てる目的の場合は当然には終わらないとする考え方もありますが、事情によって変わります
  • 家族信託で土地の名義が受託者に移ると、「タダで貸す」約束がどう引き継がれるかは、契約に書かないとはっきりしません
  • 特に、信託が終わって土地が別のきょうだいに渡ると、住み続けられないおそれがあります
  • 対策は、信託契約に使用を認める定めを置くこと、使用貸借の契約書を作ること、信託が終わった後の土地の行き先を決めておくことです
  • 地代を払う賃貸借に切り替える場合は、贈与税などの税金に注意が必要です

よくある質問

親の土地を家族信託したら、子どもはすぐに家を出なければなりませんか?

いいえ、信託をしただけで、すぐに出なければならないわけではありません。ただし、タダで土地を借りている立場は弱いため、信託契約に「子の自宅の敷地として使わせる」といった定めを置いておくことが大切です。

地代は払っていませんが、固定資産税は親に渡しています。これも使用貸借ですか?

固定資産税などの税金に相当する額以下のお金を渡しているだけであれば、税金の取扱いの上では使用貸借として扱われます(国税庁の通達)。それを超える地代を払っている場合は、賃貸借になることがあります。

家に住んでいる子どもが、受託者になってもかまいませんか?

かまいません。ただし、受託者が信託した土地を自分でタダで使い続けることは、受託者と受益者の利益がぶつかる行為にあたるおそれがあります。信託契約で、その使い方を認める定めを置いておきましょう。

信託が終わったら、土地はどうなりますか?

契約で決めておいた人(帰属権利者)に渡されます。家に住んでいる子ではなく別のきょうだいに渡ると、住み続ける根拠が弱くなるおそれがあります。土地の行き先は、建物の持ち主とあわせて考えておくことが大切です。

地代を払う賃貸借にしたほうが、安心ではありませんか?

賃貸借にすれば借地借家法で守られ、住み続ける根拠は強くなります。一方で、権利金を払わずに地代だけ払う形にすると、贈与税の問題が出ることがあります。切り替える前に、必ず税理士に相談してください。

西宮・阪神間の家族信託は、シアエスト司法書士・行政書士事務所へ

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シアエスト司法書士・行政書士事務所は、阪急西宮北口駅から徒歩3分です。

お電話:0798-31-5930

出典・参考

  • 民法(明治29年法律第89号)593条・597条・598条・601条
  • 借地借家法(平成3年法律第90号)2条・10条
  • 信託法(平成18年法律第108号)29条・30条・31条・182条
  • 相続税法(昭和25年法律第73号)9条の2
  • 国税庁 タックスアンサー No.4552「親の土地に子供が家を建てたとき」
  • 国税庁 個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和48年11月1日 直資2-189ほか)
  • 国税庁 個別通達「相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和60年6月5日 直資2-58ほか)
  • みずほ中央法律事務所「借主の死亡による使用貸借の終了と土地の使用貸借の特別扱い」 https://www.mc-law.jp/fudousan/23991/
代表司法書士・行政書士 今井 康介

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