視力が落ちてきたら考えたい手続きの備え|銀行の代筆・代理人、任意代理契約・任意後見・公正証書遺言【西宮の司法書士が解説】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

「通帳の数字が読みにくくなって、記帳した金額を見まちがえそうになった」
「銀行の窓口で、払戻しの用紙の小さな枠に名前を書くのがつらい」
「届いた手紙の中に大事な書類があっても、気づけないかもしれない」

年齢を重ねたり、目の病気になったりして、文字が読みにくい、見えにくいと感じる方は少なくありません。目が見えにくくなると、ふだんの暮らしの不便だけでなく、書類を読む、署名をする、お金を出し入れするといった「手続き」の場面で困ることが出てきます。

ただ、目の見えにくさは、「自分で考えて決める力」が弱くなったということではありません。決めるのはご本人で、読む・書く・出向くところを人の手に借りる、という備え方ができます。

この記事では、目が見えにくくなったときに困りやすい手続きと、元気なうちにできる備え(銀行の代筆・代読や代理人の仕組み、任意代理契約、任意後見、公正証書遺言)、福祉の窓口を、順にお話しします。

目次

先に結論:目のことだけなら「本人が決めて、手と目を借りる」備えを。将来に備えて任意後見と遺言も

  • 目が見えにくいことだけを理由に、成年後見や任意後見を使うことはできません。どちらも、認知症などで判断する力が不十分になった場合のための制度です
  • 銀行の窓口の代筆・代読について、金融機関の団体は「ほとんどの会員金融機関が内規を定めて対応可能」と説明しています。家族などを代理人として届け出る仕組みがある銀行もあります。扱いは銀行ごとに違います
  • 判断する力が十分なうちは、信頼できる人と「任意代理契約(財産管理の委任契約)」を結び、銀行の手続きや支払いを頼む方法があります
  • 将来、判断する力が衰えたときに備えるのが「任意後見契約」です。公正証書で結び、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから始まります
  • 遺言は、全文を手書きする自筆証書遺言より、公証人が作る公正証書遺言のほうが、目が見えにくい方には使いやすい方法です。公証人が内容を読み聞かせ、確認してから作ります

1. 目が見えにくくなると困りやすい手続き

書類を読む

契約書、保険の書類、役所からの通知、請求書など、暮らしの中には読んで確かめる書類がたくさんあります。字が小さい書類や、細かい条件が書かれた契約書は、目が見えにくくなると内容を自分で確かめることが難しくなります。訪問販売などで、内容を十分に確かめないまま契約してしまうことがないよう、周りの人の手を借りる準備をしておくと安心です。

困ったときの契約の取消しやクーリング・オフについては、次の記事で説明しています。

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署名・記入をする

銀行の払戻請求書、申込書、役所の届出書など、決まった枠の中に名前や金額を書く手続きがあります。枠の位置や書いた字が見えにくいと、書きまちがいが心配になります。

お金を出し入れする

ATMの画面の操作、通帳の記帳内容の確認、インターネットバンキングのログインや本人確認などは、目で見ることが前提になっている部分が少なくありません。

大事なポイント:「見えにくい」と「判断できない」は別のことです

法律上の成年後見制度(後見・保佐・補助)は、「精神上の障害により事理を弁識する能力」が欠けている、または不十分な人のための制度です(民法7条・11条・15条)。任意後見契約も、精神上の障害により判断する力が不十分な状況に備える契約です(任意後見契約に関する法律2条1号)。

そのため、目が見えにくいだけで、判断する力が十分な方は、これらの制度の対象にはなりません。この場合は、ご本人が決めたことを、人の手を借りて実行する仕組み(代筆・代読や、代理人への委任)を使うことになります。

2. 銀行の手続き:代筆・代読と、代理人の仕組み

窓口の代筆・代読

金融庁が開いている「障がい者団体と金融機関関係団体との意見交換会」(2026年3月11日)の議事概要では、金融機関の団体から、筆談や代筆・代読などは、ほとんどの会員金融機関が内規を定めて対応可能としている、という説明がありました。一方で、視覚障害のある方の団体からは、窓口での代筆・代読をどの窓口でも行えるようにすることや、同行援護の従業者や家族が同行したときに同行者が代筆できるようにすることなどの要望が出ています。

つまり、代筆・代読の仕組みはあっても、どのような手順で、誰が代筆できるかは、銀行や窓口によって違うことがあります。目が見えにくくなってきたら、ふだん使う銀行の窓口で、次のことを早めに聞いておくと安心です。

  • 窓口で代筆・代読をしてもらえるか。そのとき、何を持っていけばよいか
  • 家族などの付き添いの人が代筆できるか
  • ATMの操作が難しいときに、窓口で同じ手数料で手続きできるか
  • 点字や音声で取引の内容を知らせるサービスがあるか

家族などを代理人として届け出る仕組み

銀行によっては、家族を代理人として届け出ておき、代理人用のキャッシュカードを作ったり、代理人が窓口で手続きをしたりできる仕組みがあります。代理人にできる人の範囲(同居の家族に限るなど)、できる取引、必要な書類は銀行ごとに違います。

また、こうした届け出は、本人の判断する力が十分なことが前提です。本人の判断する力が衰えたあとの扱いは、それぞれの銀行の決まりによります。全国銀行協会は、判断する力が低下したお客さまや代理人との取引について、会員の銀行の参考となる考え方を公表していますが、「会員各行に一律の対応を求めるものではない」としています。

大事なのは、「家族だから、いざとなれば代わりに手続きできるだろう」と考えずに、元気なうちに、銀行の仕組みや次の章の契約で、代わりに手続きできる形を整えておくことです。判断する力が衰えたあとの預金の扱いについては、次の記事でも説明しています。

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3. 元気なうちにできる備え①:任意代理契約(財産管理の委任契約)

どんな契約か

任意代理契約は、判断する力が十分なうちに、信頼できる人(受任者)に、預金の出し入れ、公共料金や施設の費用の支払い、役所の手続きなどを頼み、代理する権限を与えておく契約です。「財産管理の委任契約」とも呼ばれます。民法の委任(民法643条)と代理(民法99条)の仕組みを使うもので、頼む内容や範囲は、契約で自由に決められます。

目が見えにくくなった方にとっては、「自分で決めるけれど、銀行に行く・書類を書く・手続きをするところを任せたい」という場面に合う方法です。

契約で決めておくこと

  • どの財産(どの預金口座など)の管理を任せるか
  • どんな手続きを任せるか(払戻し、振込、支払い、郵便物の確認、役所の手続きなど)
  • お金の出し入れの記録や、領収書の残し方
  • どのくらいの間隔で、どのように本人に報告するか
  • 受任者に報酬を払うかどうか

法律上、任意代理契約は公正証書で作らなければならないものではありません。ただ、公正証書で作っておくと、作った日や内容がはっきりし、銀行などに代理の権限を説明しやすくなることがあります。それでも、代理人として受け付けるかどうか、どの書類を求めるかは、それぞれの銀行の判断によります。

注意したいこと

  • 任意代理契約には、家庭裁判所や監督人のチェックが入りません。受任者は、信頼できる親族などから選び、記録と報告の決まりをきちんと作っておくことが大切です
  • 委任契約は、本人の判断する力が衰えても、それだけでは終わりません(民法653条)。ただ、そのころには本人が受任者の仕事をチェックすることが難しくなります。そこで、次の章の任意後見契約と一緒に結んでおき、判断する力が衰えたら任意後見に切り替える、という形がよく使われます

4. 元気なうちにできる備え②:任意後見契約

どんな契約か

任意後見契約は、将来、認知症などで判断する力が不十分になったときに備えて、自分で選んだ人(任意後見受任者)に、生活や療養看護、財産の管理に関する手続きを任せ、代理する権限を与えておく契約です(任意後見契約に関する法律2条1号)。

  • 公証人が作る公正証書で結ぶ必要があります(同法3条)
  • 契約は、登記されます
  • 本人の判断する力が不十分になったとき、家庭裁判所が任意後見監督人を選び、そのときから効力が生じます(同法2条1号・4条1項)

目が見えにくいだけでは始まりませんが、「目のことで手続きを人に頼むようになった。この先、判断する力が衰えたときのことも決めておきたい」という方には、任意代理契約とあわせて考えておきたい契約です。頼れる家族がいない方の任意後見については、次の記事で詳しく説明しています。

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成年後見制度の改正(施行前)

2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。成年後見制度の見直しは、公布から2年6か月以内に政令で定める日に始まります(2026年10月時点で、施行日はまだ決まっていません)。法務省の資料によると、主な内容は次のとおりです。

  • 後見・保佐の制度をなくし、本人に必要な事項について代理権・取消権を与える「補助」の制度に一本化する
  • 事理を弁識する能力が回復していなくても、制度を使う必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、利用を終えられる
  • 任意後見では、家庭裁判所が、明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選ばずに家庭裁判所が直接監督できる
  • 補助の制度の利用を始めても、任意後見契約が続くことを認める
  • 本人と任意後見受任者との間で、任意後見契約の効力を生じさせる順序を決める合意ができる(頼んだ人が先に亡くなった場合に備えて、次の人を決めておけるようにする)
  • 本人が公正証書で指定した人も、任意後見を始めるための申立てができる

施行日より前に結んだ任意後見契約にも、原則として改正後の法律が適用されます(改正法附則6条。それまでに生じた効力は維持されます)。今、任意後見契約を考えている方は、改正後のしくみも踏まえて契約の内容を決めることになります。改正の全体像は、次の記事で説明しています。

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5. 元気なうちにできる備え③:遺言は公正証書遺言が使いやすい

自筆証書遺言は「全文を自分で書く」ことが必要です

自分で書く自筆証書遺言は、遺言する人が、全文、日付、氏名を自分で書き、印を押す必要があります(民法968条1項)。財産の目録はパソコンで作ったものや通帳のコピーでもかまいませんが、目録の各ページに署名と押印が必要です(同条2項)。

目が見えにくくなると、全文を書くこと自体が大変になるうえ、書いた内容を自分で読み返して確かめることも難しくなります。書きまちがいや形式の不備があると、遺言が無効になったり、使えなくなったりするおそれがあります。

なお、2026年の民法改正で、自筆証書遺言などの押印は任意になります(押印の任意化は、公布から1年以内に政令で定める日に施行)。全文を自分で書く決まりは、自筆証書遺言では変わりません。自筆証書遺言の書き方は、次の記事で説明しています。

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公正証書遺言なら、口で伝えて、読み聞かせで確かめられます

公正証書遺言は、公証人が作る遺言です。民法は、証人2人以上の立会いのもとで、遺言する人が遺言の内容を公証人に口で伝える(口授)ことを定めています(民法969条1項)。作り方は、公証人法の定めによります(同条2項)。

  • 公証人は、作った公正証書を列席者に読み聞かせ、または閲覧させて、内容が正確であることの承認を得ます(公証人法40条1項)
  • 遺言する人が、視覚障害などで目で見て内容を確かめることが難しい場合には、公証人は証人を立ち会わせることになっています(公証人法30条)。遺言では、もともと証人2人以上の立会いが必要です
  • 日本公証人連合会の案内では、病気などのために電子サインができない場合でも、公証人がその旨を記録または記載することで、公正証書を作れることが法務省令で認められているとされています
  • 公証人が、自宅や老人ホーム、病院などに出張して作ることもできます(日本公証人連合会)
  • 家庭裁判所での検認の手続きが要りません

公正証書の作成は、2025年10月から手続きのデジタル化が進み、遺言公正証書の原本も電子データで作られ、署名はタブレットなどへの電子サインで行われるようになっています。くわしくは次の記事をご覧ください。

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証人になれない人に注意

次の人は、遺言の証人になれません(民法974条)。

  • 未成年者
  • 推定相続人(遺言する人が亡くなったら相続人になる予定の人)と、遺言で財産をもらう人(受遺者)、およびこれらの人の配偶者と直系血族
  • 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人

家族は証人になれないことが多いため、証人を誰に頼むかは、早めに公証役場や専門家に相談しておくとよいでしょう。

パソコンで作って法務局に預ける「保管証書遺言」(まだ使えません)

2026年の民法改正では、パソコンなどで作った遺言のデータやそれを印刷したものを法務局に提供し、本人が遺言の全文を口で述べるなどして法務局が保管する「保管証書遺言」が新しく設けられます。システムの改修が必要なため、公布(2026年6月24日)から3年以内に政令で定める日に始まる予定で、2026年10月時点ではまだ使えません。

6. 福祉の窓口:身体障害者手帳と同行援護

目の見えにくさが一定の程度にあたる場合は、身体障害者手帳(視覚障害)の交付を申請できます(身体障害者福祉法15条)。都道府県知事が定める医師(指定医)の診断書が必要です。西宮市の案内では、交付申請の窓口は市役所本庁舎1階の障害福祉課です。

障害福祉サービスの「同行援護」は、視覚障害により移動に著しい困難がある人が外出するときに同行して、移動に必要な情報の提供(代筆・代読を含む)や移動の援護などを行うサービスです(障害者総合支援法5条4項、厚生労働省の説明)。西宮市では、障害福祉サービスの申請・相談の窓口も障害福祉課です。銀行や役所に出かけるときの付き添いや代読に使えることがあるため、手帳とあわせて窓口で相談してみてください。

障害福祉サービスの全体像は、次の記事で家族の目線から整理しています。

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7. 今日からできる準備のチェックリスト

  1. 困っている手続きを書き出す:読む・書く・出向く・お金の出し入れのうち、どこが大変かを整理します
  2. 銀行の窓口で聞いておく:代筆・代読、付き添いの人の代筆、代理人の届け出、ATMが使えないときの手数料などを確かめます
  3. 任せる人を考える:信頼できる親族など、手続きを頼める人がいるか、その人に引き受けてもらえるかを話し合います
  4. 任意代理契約・任意後見契約を考える:頼む内容と、記録・報告の決まりを決めます。将来に備えて任意後見契約もあわせて検討します
  5. 遺言を考える:目が見えにくい方は、公正証書遺言を中心に考えます。証人を誰に頼むかも決めておきます
  6. 福祉の窓口に相談する:身体障害者手帳や同行援護など、使える制度を市役所の障害福祉課で確かめます

よくある質問

目が見えにくいだけでも、成年後見を使えますか?

使えません。成年後見制度(後見・保佐・補助)は、精神上の障害により判断する力が欠けている、または不十分な人のための制度です。判断する力が十分な方は、銀行の代筆・代読や、任意代理契約(財産管理の委任契約)で、手続きを人に頼む方法を考えます。

銀行の手続きを家族に代わりにしてもらうことはできますか?

銀行によっては、家族を代理人として届け出る仕組みがあります。また、任意代理契約を結んで代理の権限を与える方法もあります。どの書類で、どこまで手続きできるかは銀行ごとに違うため、早めに取引先の銀行で確かめてください。

目が見えなくても、遺言は作れますか?

作れます。公正証書遺言なら、遺言の内容を公証人に口で伝え、公証人が作った遺言を読み聞かせてもらって確かめます。視覚障害などで目で内容を確かめにくい方の場合は、公証人は証人を立ち会わせることになっています。自筆証書遺言は全文を自分で書く必要があるため、目が見えにくい方には負担が大きくなります。

任意代理契約と任意後見契約は、どう違うのですか?

任意代理契約は、判断する力が十分なうちから、頼んだ手続きを受任者にしてもらう契約で、家庭裁判所のチェックは入りません。任意後見契約は、判断する力が不十分になったときに備える契約で、公正証書で結び、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだときから始まります。2つをあわせて結んでおく方法もあります。

視力の低下で身体障害者手帳を取ると、どんなことに役立ちますか?

手帳があると、同行援護などの障害福祉サービスの申請や、各種の割引・支援の手続きにつながることがあります。同行援護は、外出時の移動の援護や、代筆・代読を含む情報の提供を行うサービスです。西宮市では、市役所の障害福祉課が窓口です。

まとめ

目が見えにくくなると、書類を読む、署名をする、銀行でお金を出し入れするといった手続きで困ることが増えてきます。ただ、目の見えにくさは、判断する力の問題ではありません。ご本人が決めて、読む・書く・出向くところを人の手に借りる、という備え方ができます。

銀行の代筆・代読や代理人の仕組みを確かめ、信頼できる人と任意代理契約を結んでおく。将来、判断する力が衰えたときに備えて任意後見契約を考える。遺言は、口で伝えて読み聞かせで確かめられる公正証書遺言を選ぶ。こうした準備は、元気なうちだからこそ、ご自身の考えで進められます。成年後見制度は改正が決まっていて、今後しくみが変わることも頭に入れておきましょう。

任意代理契約・任意後見契約・遺言など、目が見えにくくなったときの備えのご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。ご説明の際は、資料を読み上げながら内容を確かめていただけるよう配慮し、外出が難しい方にはご自宅や施設への訪問についてもご相談に応じます。

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出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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