※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「相続人の中に、成年後見を受けている家族がいる」。このような相続では、遺産分割の進め方だけでなく、相続税の「障害者控除」も確かめておきたい点です。
この記事では、成年被後見人が相続人になったときに障害者控除が使えるのか、いくら差し引けるのか、控除しきれない分はどうなるのかを整理し、あわせて遺産分割で気をつける点をお話しします。税金の具体的な計算や申告は、税理士にご相談ください。
【2026年の法改正について】2026年6月24日に、成年後見制度を見直す法律(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)が公布されました。施行後は、後見・保佐・補助の3つが「補助」に一本化されます。施行日は「公布から2年6か月以内の政令で定める日」で、2026年10月時点ではまだ決まっていません。この記事は今の制度にもとづいて説明しています。施行後の扱いは6章をご覧ください。
先に結論:成年被後見人は「特別障害者」として控除を受けられます
- 成年被後見人は、障害者手帳がなくても、相続税の障害者控除では「特別障害者」として扱われます(東京国税局の文書回答・平成26年)
- 控除額は「85歳になるまでの年数×20万円」です。1年未満の端数は1年に切り上げます
- 本人の相続税から引ききれない分は、同じ相続で財産を受け取った扶養義務者(配偶者、親、兄弟姉妹など)の相続税から差し引けます
- 障害者控除を使った結果、全員の相続税がゼロになれば、申告はいりません。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合は申告が必要です
- 遺産分割は、成年後見人が本人に代わって行います。後見人も相続人なら、特別代理人の選任が必要です(後見監督人がいれば、監督人が本人に代わります)
1. 成年被後見人は「特別障害者」として扱われます
税法の決まり
相続税の障害者控除は、相続人が障害者であるときに、その人の相続税から一定の金額を差し引く制度です(相続税法19条の4)。
障害者控除には、「一般障害者」と、障害の重い「特別障害者」の2つがあります。どちらに当たるかは政令で決まっていて(相続税法施行令4条の4)、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」は、特別障害者に当たるとされています(同条2項1号、所得税法施行令10条2項1号)。国税庁のタックスアンサー(No.4167のQ&A)でも、この人は特別障害者になると書かれています。
成年被後見人はこれに当たります
成年後見(後見開始の審判)は、まさに「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」について、家庭裁判所が行うものです(民法7条)。
この点について、東京国税局は平成26年3月14日の文書回答で、成年被後見人は相続税の障害者控除の対象となる特別障害者に当たると考えられる、という照会者の見解を「差し支えありません」としています。後見開始の審判を受けていることは、後見の登記事項証明書で確かめることができます。
つまり、障害者手帳を持っていなくても、成年後見を受けていれば、特別障害者として障害者控除を受けられるということです。
なお、文書回答は東京国税局としての見解で、照会者以外の申告を拘束するものではないと、回答の中でも断られています。実際の申告は、税理士と確かめながら進めてください。
保佐・補助を受けている方は
被保佐人・被補助人は、保佐や補助の審判を受けているだけでは、障害者には当たりません。次のような場合に、障害の程度に応じて一般障害者か特別障害者になります(相続税法施行令4条の4、所得税法施行令10条)。
| 当てはまるもの | 一般障害者 | 特別障害者 |
|---|---|---|
| 精神障害者保健福祉手帳 | 2級・3級 | 1級 |
| 身体障害者手帳 | 3級〜6級 | 1級・2級 |
| 知的障害の判定(児童相談所など) | 知的障害者 | 重度の知的障害者 |
| 65歳以上で、市町村長などの認定を受けている | 障害者に準ずる | 特別障害者に準ずる |
65歳以上の方で手帳がない場合は、お住まいの市区町村で、障害者控除の対象となる認定を受けられることがあります。窓口に確かめてみてください。

2. 障害者控除を受けられる人(3つの条件)
国税庁のタックスアンサーNo.4167では、次のすべてに当てはまる人が障害者控除を受けられるとされています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ① 住所 | 相続や遺贈で財産を取得したときに、日本国内に住所があること(一時居住者で、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除く) |
| ② 障害者であること | 相続や遺贈で財産を取得したときに、障害者であること |
| ③ 法定相続人であること | 相続を放棄した場合は、放棄がなかったものとした場合の相続人であること |
気をつけたい点は次のとおりです。
- 本人が財産を受け取っていることが前提です:成年被後見人が遺産分割で何も取得しないと、障害者控除そのものが使えません
- 相続を放棄していても対象になることがあります:③は「放棄がなかったものとした場合の相続人」で判断するため、相続を放棄した人が生命保険金などを受け取った場合も、控除を受けられることがあります
- 法定相続人でない人は対象外です:たとえば、子が健在なときに孫が遺言で財産を受け取っても、その孫は障害者控除を受けられません
- 国外に住んでいる人は対象外です:ここは、条件によって国外に住む人も受けられる未成年者控除と違うところです
3. 控除額の計算
計算式
控除額は、次の式で計算します(相続税法19条の4第1項)。
- 特別障害者(成年被後見人など):(85歳 − 相続開始時の年齢)× 20万円
- 一般障害者:(85歳 − 相続開始時の年齢)× 10万円
85歳になるまでの年数に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げます。
計算の例(特別障害者の場合)
| 相続開始時の年齢 | 85歳までの年数 | 控除額 |
|---|---|---|
| 45歳3か月 | 39年9か月 → 40年 | 800万円 |
| 65歳0か月 | 20年 | 400万円 |
| 78歳6か月 | 6年6か月 → 7年 | 140万円 |
年齢が若いほど、控除額は大きくなります。
注意したい点
- そもそも相続税がかからない場合は、関係ありません:遺産の合計が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下なら、相続税はかかりません(相続税法15条)
- 前の相続で障害者控除を使ったことがある場合:控除できる額が制限されることがあります(相続税法19条の4第3項、相続税法施行令4条の4第4項)。親の相続が続いたときなどは、前回の申告書を確かめます
4. 控除しきれない分は、扶養義務者の相続税から差し引けます
しくみ
障害者控除の額が、本人の相続税額より大きいときは、引ききれない分を、本人の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます(相続税法19条の4第3項で準用する19条の3第2項)。
扶養義務者とは、配偶者、直系血族、兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の人をいいます(相続税法1条の2第1号)。差し引けるのは、その扶養義務者も同じ亡くなった方から相続や遺贈で財産を受け取っている場合です。
例で見てみます
父が亡くなり、相続人は母、長男(52歳・成年被後見人)、長女の3人とします。
- 長男の控除額は、(85歳−52歳)=33年 × 20万円 = 660万円
- 長男の相続税額(控除前)が200万円なら、長男の相続税は0円
- 引ききれない460万円を、母か長女(どちらも扶養義務者)の相続税額から差し引けます
扶養義務者が2人以上いるときは、全員の話し合いで振り分けて申告書に書くか、話し合わなければ、各人の相続税額の割合で分けます(相続税法施行令4条の4第3項で準用する4条の3)。
この例の数字は、しくみを説明するためのものです。実際の相続税額は、財産の額や分け方、ほかの特例で変わります。
5. 申告は必要?(障害者控除の申告要件)
相続税の申告が必要になるのは、障害者控除などを差し引いた後に、納める相続税額がある人です(相続税法27条1項)。障害者控除は、申告しなければ使えないという決まり(申告要件)がありません。そのため、障害者控除を差し引いた結果、全員の相続税がゼロになれば、申告はいりません。
一方で、次の特例は、申告をしないと使えません。
| 特例 | 申告 |
|---|---|
| 障害者控除 | ゼロになれば申告不要 |
| 配偶者の税額の軽減 | 申告が必要(相続税法19条の2第3項) |
| 小規模宅地等の特例 | 申告が必要(申告が要るかどうかは、特例を使う前の金額で判断します) |
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って相続税がゼロになる場合は、申告が必要です。どの特例を使うか、申告がいるかは、早めに税理士に確かめてください。申告の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
成年被後見人が申告をする場合は、成年後見人が本人に代わって手続きをします。
6. 遺産分割の進め方と、2026年改正後の扱い
成年後見人が本人に代わって協議します
成年被後見人は、自分で遺産分割協議をすることができません。成年後見人が本人に代わって協議に加わります(民法859条)。遺産分割協議書には、「◯◯(成年被後見人)成年後見人 △△」のように書き、後見人が署名・押印します。不動産の相続登記では、後見人の印鑑証明書と、後見の登記事項証明書を使います。

後見人も相続人のときは、特別代理人を選びます
たとえば母が長男の後見人で、母も相続人という場合は、母と長男の利益がぶつかります。このときは、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、特別代理人が長男に代わって協議します(民法860条・826条)。後見監督人がいる場合は、後見監督人が本人に代わるため、特別代理人はいりません(民法851条4号、860条ただし書)。
家庭裁判所の案内(例:福岡家庭裁判所)では、申立てのときに遺産分割協議書の案と、本人の法定相続分が確保されていることが分かる書面を出すよう求められています。後見人や特別代理人は本人の利益を守る立場なので、本人の取り分を減らす分け方は、通りにくいと考えておきます。

保佐・補助の場合
- 保佐:遺産分割は、本人が保佐人の同意を得て行うことができます(民法13条1項6号)。保佐人が本人に代わって協議するには、家庭裁判所で遺産分割についての代理権を付けてもらう必要があります(民法876条の4)
- 補助:遺産分割について同意が必要と定められていれば同意を得て、代理権があれば補助人が代わって協議します(民法17条・876条の9)
- 保佐人・補助人も相続人のとき:臨時保佐人・臨時補助人の選任を家庭裁判所に申し立てます(民法876条の2第3項・876条の7第3項。保佐監督人・補助監督人がいる場合を除く)
保佐人が本人の確定申告などの税金の手続きを代わりに行う場合も、その行為についての代理権が必要です。代理権の範囲は、審判書や登記事項証明書で確かめます。
2026年の改正後はどうなるか
改正法が施行されると、後見・保佐は廃止され、「補助」に一本化されます。今の税法は、成年後見の区分ではなく「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」という状態で特別障害者を決めていますが、施行後に何でその状態を確かめるのか、税の取扱いがどう変わるのかは、2026年10月時点で国税庁の案内が見当たりません。施行日が決まった後の税制の手当てを確かめる必要があります。

障害者控除のために後見を始める、は考えもの
障害者控除は大きな額になることがありますが、税金のために後見を申し立てるのは、順番が逆です。今の制度では、後見は原則として本人が亡くなるまで続き、家庭裁判所への定期的な報告や、専門職が後見人になった場合の報酬も続きます。後見は、本人の財産と暮らしを守るために必要かどうかで考えます。
7. 何から始めればいい?確かめる順番
- 後見の登記事項証明書を取る:成年被後見人であることと、後見人・後見監督人が誰かを確かめます
- 相続人と財産を確かめる:戸籍で法定相続人を確定し、財産の一覧を作ります。基礎控除を超えるかを見ます
- 後見人が相続人かどうかを確かめる:相続人なら、特別代理人の選任を申し立てます(監督人がいれば不要)
- 税理士に試算を頼む:障害者控除の額、引ききれない分の振り分け、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を含めて計算してもらいます
- 遺産分割協議と申告:本人の法定相続分を確保した案で協議し、必要なら10か月以内に申告します
- 相続登記:不動産があれば、名義を変えます(相続登記は義務です)
よくある質問
- 成年後見人がついていれば、障害者手帳がなくても障害者控除を受けられますか?
-
受けられます。成年被後見人は、相続税の障害者控除では特別障害者として扱われ、85歳になるまでの年数1年につき20万円を差し引けます(東京国税局の文書回答・平成26年)。後見の登記事項証明書で、後見開始の審判を受けていることを確かめます。
- 相続税の障害者控除は、申告しないと使えませんか?
-
障害者控除には申告要件がないため、控除を差し引いて全員の相続税がゼロになれば、申告はいりません。ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使う場合は申告が必要です。
- 障害者控除が控除しきれないときは、どうなりますか?
-
引ききれない分は、同じ相続で財産を受け取った扶養義務者(配偶者、親、兄弟姉妹など)の相続税額から差し引けます。扶養義務者が2人以上いれば、話し合いで振り分けるか、相続税額の割合で分けます。
- 後見人も相続人です。そのまま遺産分割をしてよいですか?
-
後見人と本人の利益がぶつかるため、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。後見監督人がいる場合は、監督人が本人に代わるため、特別代理人はいりません。
- 保佐人は、本人の確定申告や相続の手続きを代わりにできますか?
-
保佐人は、当然には本人の代理人ではありません。代わりに行うには、家庭裁判所の審判で、その行為についての代理権を付けてもらっている必要があります。遺産分割は、本人が保佐人の同意を得て行うこともできます。
まとめ
成年被後見人は、障害者手帳がなくても、相続税の障害者控除で特別障害者として扱われます。控除額は「85歳になるまでの年数×20万円」で、引ききれない分は扶養義務者の相続税から差し引けます。
一方で、本人が財産を取得していないと控除は使えず、後見人も相続人なら特別代理人が必要です。遺産分割の形と相続税の計算はつながっているので、分け方を決める前に、税理士の試算と家庭裁判所の手続きを並べて進めることが大切です。
成年後見を受けている方がいる相続のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。特別代理人の選任の申立てや相続登記の段取りを、税理士とも連携しながら一緒に整理します。
出典・参考
- 相続税法 1条の2・15条・19条の2・19条の3・19条の4・27条(e-Gov法令検索)
- 相続税法施行令 4条の3・4条の4、所得税法施行令 10条(e-Gov法令検索)
- 民法 7条・13条・17条・826条・851条・859条・860条・876条の2・876条の4・876条の7・876条の9(e-Gov法令検索)
- 国税庁 タックスアンサー No.4167「障害者の税額控除」と同Q&A「障害者の税額控除の対象となる人の範囲」(令和8年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4167.htm
- 国税庁 タックスアンサー No.4205「相続税の申告と納税」
- 東京国税局 文書回答事例「成年被後見人の相続税における障害者控除の適用について」(平成26年3月14日)https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/souzoku/140314/index.htm
- 福岡家庭裁判所後見センター「特別代理人の選任の申立てについて」
- 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)


