※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「父が亡くなって1か月。カード会社から、父あての請求書が届いた」
「実家は古い空き家。借金もありそうなので、相続はしたくない」
こうした場面で、まず思い浮かぶのが「相続放棄」です。相続放棄は、家庭裁判所に申述することで、借金も含めて相続から離れられる手続きです。ただ、手続きの前にしてしまったことで放棄ができなくなったり、3か月の期限に追われたり、放棄をした後にも空き家の管理が残ったりと、知らずにつまずきやすい点がいくつかあります。
この記事は、相続放棄の「入口」の記事です。全体の流れと、してはいけないこと、放棄の後に起きることを、失敗しない順番で短く整理します。期限の数え方などの細かい話は、それぞれの記事へご案内します。
先に結論:「触らない → 期限を確かめる → 調べる → 申述する → 後の始末」の順番で進めます
- 相続放棄をすると、その相続について初めから相続人でなかったことになります(民法939条)。借金だけでなく、預金や不動産も受け取れません
- 亡くなった方の財産を売ったり使ったりすると、相続を認めた(単純承認)とみなされ、放棄ができなくなることがあります(民法921条1号)。結論が出るまで、財産には手をつけないことが大切です
- 期限は「自分が相続人になったことを知った時から3か月」です(民法915条1項)。調べる時間が足りないときは、期限内に延長を申し立てられます
- 申述先は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所です。費用は収入印紙800円分と連絡用の郵便切手です
- 放棄をしても、次の順位の相続人に相続権が移ります。また、空き家などを自分が占有しているときは、引き渡すまで保存する義務が残ります(民法940条)
1. 相続放棄とは:3つの選択肢と、放棄の効果
相続の3つの選択肢
人が亡くなると、相続人は次の3つから選びます。
| 選択肢 | 内容 | 手続き |
|---|---|---|
| 単純承認 | 預金や不動産も、借金も、すべて引き継ぐ(民法920条) | 特になし(3か月が過ぎると、この扱いになります) |
| 限定承認 | 引き継いだ財産の範囲でだけ借金を払う(民法922条) | 相続人全員で家庭裁判所に申述 |
| 相続放棄 | 初めから相続人でなかったことになる(民法939条) | 一人ひとりが家庭裁判所に申述 |
相続放棄は、相続人一人ひとりが自分で決めて申述します。兄は放棄し、妹は相続する、ということもできます。
放棄をする前に知っておきたい4つのこと
- プラスの財産も受け取れません。「借金だけ断って、家はもらう」という選び方はできません
- 一度受理されると、撤回はできません(民法919条1項)。だまされた、おどされたなどの事情があるときに限り、取消しが認められることがあります
- 生きているうちには放棄できません。相続は亡くなった時に始まるためです(民法882条)。親の生前に「放棄する」と約束しても、家庭裁判所での放棄にはなりません
- 自分の子に相続権が移るわけではありません。子が親の代わりに相続する「代襲相続」は、相続人が先に亡くなった場合などの仕組みで、相続放棄は含まれません(民法887条2項)。そのかわり、次の順位の人(親や兄弟姉妹など)に相続権が移ります(民法889条)
なお、「借金はないけれど、遺産はいらない」という場合には、家庭裁判所での相続放棄のほかに、遺産分割の中で自分の取り分をゼロにする方法などもあります。違いは、次の記事で詳しく説明しています。

2. 失敗しない順番:相続放棄の全体の流れ
相続放棄は、次の順番で進めると、つまずきにくくなります。
| 順番 | すること | ポイント |
|---|---|---|
| 1 | 財産に手をつけない | 預金の引き出し、遺品の持ち帰り、請求書の支払いは、結論が出るまで待ちます |
| 2 | 期限を確かめる | 「知った日」を書き留め、3か月の期限を出します |
| 3 | 財産と借金を調べる | 通帳、郵便物、督促状、固定資産税の通知書などを確かめます |
| 4 | 決める | 放棄・限定承認・単純承認のどれにするか。決められないときは延長の申立て |
| 5 | 家庭裁判所に申述する | 申述書と戸籍などを出します |
| 6 | 放棄の後の始末 | 債権者や次の順位の方に知らせ、空き家などを引き継ぎます |
手順1:財産に手をつけない
いちばん先に気をつけたいのが、亡くなった方の財産の扱いです。してはいけないことは、3章でまとめます。
手順2:期限を確かめる
期限は、亡くなったことと、自分が相続人になったことを知った時から3か月です。知った日は数えず、翌日から数えます。期限の数え方や、第2・第3順位の方の期限については、次の記事で詳しく説明しています。

手順3:財産と借金を調べる
相続人は、承認か放棄かを決める前に、相続財産を調べることができます(民法915条2項)。通帳や郵便物のほか、消費者金融やカードの借入れは、信用情報機関に開示を求めて調べる方法もあります。ただし、信用情報に載らない借金もあります。

手順4:決める(決められないときは延長を)
借金が多いことがはっきりしていれば相続放棄、財産と借金のどちらが多いか分からなければ限定承認も考えます。3か月で調べきれないときは、期限内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることができます(民法915条1項ただし書)。
手順5:家庭裁判所に申述する
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申述先 | 亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所(西宮市・尼崎市・芦屋市は神戸家庭裁判所尼崎支部) |
| 費用 | 収入印紙800円分(1人につき)、連絡用の郵便切手 |
| 共通の書類 | 相続放棄の申述書、亡くなった方の住民票除票(または戸籍附票)、放棄する方の戸籍謄本 |
| 立場ごとの書類 | 亡くなった方の死亡の記載のある戸籍など。親や兄弟姉妹が申述する場合は、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍なども必要です |
期限までに集められない戸籍は、申述した後に追加で出すこともできます(裁判所の案内)。
申述した後、家庭裁判所から、放棄の意思や、財産を処分していないか、いつ知ったかなどをたずねる書面(照会書)が届くことがあります。届いたときは、事実のとおりに書いて、期限までに返送します。
内容に問題がなければ、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。
手順6:放棄の後の始末
放棄の後にすることは、5章でまとめます。
3. やってはいけないこと:単純承認とみなされる行為
法律の決まり
民法921条は、次の場合には単純承認をしたものとみなす、と定めています。
- 相続財産の全部または一部を処分したとき(ただし、保存行為などは除きます)
- 3か月の期間内に、限定承認も相続放棄もしなかったとき
- 放棄をした後でも、相続財産を隠したり、ひそかに使ったりしたとき
1と3は、放棄の前でも後でも、財産の扱いを誤ると放棄が認められなくなるおそれがある、ということです。
行為ごとの目安
どこまでが「処分」かは、個々の事情で判断されます。迷う行為は、結論が出るまで控えるのが安全です。
| 行為 | 目安 |
|---|---|
| 亡くなった方の預金を引き出して使う | 処分とされるおそれが高い |
| 車・不動産・株を売る、名義を変える | 処分とされるおそれが高い |
| 亡くなった方の貸したお金や家賃を取り立てる | 処分とされるおそれがある |
| 価値のある遺品(貴金属・ブランド品など)を持ち帰る、売る | 処分とされるおそれがある |
| 亡くなった方の預金から請求書(カード・税金・入院費など)を払う | 処分とされるおそれがある |
| 自分のお金で請求書を払う | 相続財産の処分には当たらないと考えられるが、払う前に相談するのが安全 |
| 郵便物を受け取る、残高を照会する | ふつうは処分に当たらない |
| 雨漏りの応急処置など、財産を守るための最低限のこと | 保存行為として除かれる(民法921条1号ただし書) |
迷いやすい2つの場面
葬儀費用:亡くなった方の預金から、社会的に見て相当な範囲の葬儀費用を払っても、処分に当たらないとした裁判例があります。ただし、金額や事情によって判断が分かれる余地があります。
形見分け:写真や手紙、価値の低い日用品など、一般的な形見分けの範囲であれば処分に当たらないと考えられています。一方で、市場で値段がつく物をまとめて持ち帰ったことが処分に当たると判断された裁判例もあります。価値の判断に迷う物は、放棄するかどうかの結論が出るまで動かさないのが安全です。
4. 期限:要点だけ
- 相続放棄の期限は、亡くなったことと、自分が相続人になったことを知った時から3か月です(民法915条1項)。亡くなった日からではありません
- 期限は相続人ごとに別々です。先の順位の人が放棄をして相続人になった方は、そのことを知った時から数えます
- 期限内に放棄も限定承認もしなかったときは、単純承認をしたものとみなされます(民法921条2号)
- 財産が全くないと信じ、そう信じたことに相当な理由があるときは、財産があると分かった時から数えてよいとした最高裁の判決があります(最高裁昭和59年4月27日判決)。「知らなかった」だけで認められるわけではありません
数え方の具体例や、延長の申立ての書類は、2章でご紹介した記事をご覧ください。
亡くなった方の相続人が、放棄するかを決めないまま亡くなった場合(再転相続)は、数え始めが変わります。次の記事で説明しています。

5. 放棄の後に起きること
次の順位の人に相続権が移ります
子が全員放棄をすると親や祖父母に、親や祖父母も放棄をすると兄弟姉妹(亡くなっていればおい・めい)に、相続権が移ります(民法889条)。家庭裁判所から次の順位の人に知らせが届く仕組みはないため、放棄をした方から一言伝えておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。
配偶者は常に相続人です(民法890条)。配偶者が放棄をしても、新しい相続人が増えるわけではなく、残る相続人の取り分が変わります。
債権者から請求が届いたら
裁判所は、債権者から請求を受けている場合には、家庭裁判所で申述が受理されたことを債権者に伝えるとよい、と案内しています。受理通知書の写しを送るのが一般的です。
受理を証明する書類(相続放棄申述受理証明書)は、受理した家庭裁判所に申請すると交付されます(収入印紙150円分)。債権者などの利害関係人も、資料を付けて申請したり、放棄の申述があったかどうかを家庭裁判所に照会したりできます(神戸家庭裁判所などの案内)。
空き家などを占有しているときは「保存」の義務が残ります
2023年4月の改正後の民法940条では、放棄の時に相続財産を「現に占有している」人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、自分の財産と同じ程度の注意をもって、その財産を保存しなければならないとされています。
たとえば、実家の鍵を持っていて出入りしている、荷物を置いている、といった場合です。くわしくは、次の記事で説明しています。

相続人が全員放棄をしたとき
相続人が誰もいなくなると、家庭裁判所が、利害関係人などの申立てにより「相続財産清算人」を選びます(民法952条)。清算人が財産を整理して借金を払い、特別縁故者への分与(民法958条の2)を経て、残った財産は国のものになります(民法959条)。
実家にご家族が住んでいる場合、全員が放棄をすると、その家に住み続けられるとは限りません。放棄の前に、住まいをどうするかも考えておきましょう。

生命保険金は、多くの場合受け取れます
受取人に指定された人が受け取る死亡保険金は、受取人が自分の固有の権利として取得するもので、亡くなった方の相続財産には属さない、というのが最高裁の考え方です(最高裁平成16年10月29日決定ほか)。このため、相続放棄をしても、受取人として保険金を受け取れるのがふつうです。ただし、受取人が「亡くなった方本人」になっている契約などは扱いが違うことがあるため、契約の内容を確かめてください。

よくある質問
- 相続放棄をすると、借金の請求はすぐに止まりますか?
-
放棄が受理されると、借金を相続で負うことはなくなります。ただ、債権者が受理を知らないうちは請求が届くことがあります。受理通知書の写しを送るなどして、受理されたことを伝えましょう。
- 亡くなった父の携帯電話や公共料金は、解約してもよいですか?
-
止めるだけの手続きは、ふつうは処分に当たらないと考えられています。ただし、解約にともなう精算金を亡くなった方の預金から払うと、問題になるおそれがあります。支払いがからむときは、払う前にご相談ください。
- 兄弟のうち、自分だけ相続放棄をすることはできますか?
-
できます。相続放棄は一人ひとりが自分で決めて申述します。ただし、子が全員放棄をすると、相続権は親や兄弟姉妹に移ります。家族の中で放棄する人としない人がいるときは、次の順位の方への影響もあわせて考えましょう。
- 相続放棄をしたら、実家の片付けや管理はしなくてよいのですか?
-
放棄の時に実家を占有していた場合は、次の相続人などに引き渡すまで、保存する義務が残ります(民法940条)。一方で、遺品を処分すると単純承認とみなされるおそれがあります。片付けを始める前に、どこまでしてよいかを確かめてください。
- 相続放棄の手続きは、自分でできますか?司法書士には何を頼めますか?
-
自分で申述することもできます。戸籍が多く必要な場合や、期限が迫っている場合、3か月を過ぎていて事情の説明が必要な場合などは、専門家に相談すると安心です。司法書士は、家庭裁判所に出す申述書や延長の申立書などの書類を作成できます(司法書士法3条1項4号)。
まとめ
相続放棄は、借金を含めて相続から離れるための手続きです。失敗しないためには、まず財産に手をつけず、期限を確かめ、財産と借金を調べてから、家庭裁判所に申述する、という順番が大切です。
放棄をした後も、次の順位の方への連絡や、債権者への対応、空き家を占有している場合の保存の義務が残ることがあります。期限の数え方、空き家の管理、信用情報に載らない借金、再転相続などの細かい話は、この記事でご紹介した各記事をご覧ください。
相続放棄のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。期限の確認や、してよいこと・控えることの整理から、戸籍の取り寄せ、申述書の作成まで、順を追ってご案内します。
出典・参考
- 民法 882条・887条・889条・890条・897条の2・915条・919条・920条・921条・922条・938条・939条・940条・952条・958条の2・959条(e-Gov法令検索)
- 司法書士法 3条(e-Gov法令検索)
- 最高裁判所 昭和59年4月27日判決(熟慮期間の起算点)https://www.courts.go.jp/hanrei/52168/detail2/index.html
- 最高裁判所 平成16年10月29日決定(死亡保険金請求権は受取人の固有の権利)https://www.courts.go.jp/hanrei/52421/detail2/index.html
- 裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_25/index.html
- 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html
- 神戸家庭裁判所「相続の放棄の申述」https://www.courts.go.jp/kobe/saiban/souzoku/index.html
- 神戸家庭裁判所「その他書式(相続放棄・限定承認の申述の有無の照会)」https://www.courts.go.jp/kobe/saiban/sonota_syosiki2/index.html
- 神戸家庭裁判所「相続放棄・限定承認の申述の有無等の照会について」(管轄区域)https://www.courts.go.jp/kobe/vc-files/kobe/file/271104umusyoukaisetumei.pdf

