「無宗教」でもお墓参りはする日本人へ|祈りの心と、お墓の承継・墓じまい・死後事務・遺言でできる法的な備え【司法書士コラム】

※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。

日本はよく「無宗教の国」と言われます。確かに、特定の宗教団体に熱心に属している方は多くないかもしれません。けれども、お盆やお彼岸にはお墓参りをし、お正月には初詣に行き、仏壇や故人に静かに手を合わせる。そうした祈りの習慣や、目に見えないものを大切にする心は、私たちの暮らしに深く根づいています。

相続や終活のご相談でも、「特定の宗教や形式にはこだわらないけれど、供養する心は大切にしたい」「子どもたちに迷惑はかけたくないが、家族のつながりは感じていたい」というお気持ちをうかがうことがあります。

このコラムでは、そうした祈りの心を、どうやって具体的な将来の安心につなげていくかを、司法書士の立場からお話しします。前半では祈りと心の健康についての研究と、心だけでは守れないものについて、後半では、お墓を継ぐ人の決め方、墓じまいの手続き、永代供養を選ぶときの確認点、遺言や死後事務委任などの法的な備えを取り上げます。信仰を持つことを勧めるものでも、否定するものでもありません。

目次

先に結論:祈りの心を「安心」につなげるために押さえておきたいこと

  • 信仰や祈りと心の健康の関係は、世界中で研究されてきました。関係があることと、信仰が幸福の原因であることは別の話ですが、手を合わせる習慣が多くの人の支えになってきたことは確かだと言えそうです
  • ただ、心の中で願っているだけでは、葬儀・お墓・遺産の分け方といった現実の手続きは進みません
  • お墓や仏壇は、相続財産とは別に「祖先の祭祀を主宰すべき者」が引き継ぎます。亡くなった方が指定していればその人、指定がなければ慣習、慣習が明らかでなければ家庭裁判所が決めます(民法897条)
  • 墓じまいでお骨を別のお墓や納骨堂に移すには、今お骨がある場所の市区町村長の改葬許可が必要です(墓地、埋葬等に関する法律5条)
  • 葬儀や納骨の希望は、遺言の付言事項に書くだけでなく、死後事務委任契約で実際に行ってもらう形にしておくと安心です

1. 研究が示す「祈り・信じる心」と心の健康

「神様なんていない」「非科学的だ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

けれども、宗教の教えが正しいかどうかとは別に、人が何かを信じたり、祈ったりすることと心の健康との関係は、世界中で研究されてきました。

アメリカのデューク大学のケーニッヒ教授は、宗教やスピリチュアリティ(目に見えないものとのつながりの感覚)と心身の健康についての研究を幅広く集めて整理しています(2012年)。それによると、2010年半ばまでに、宗教・スピリチュアリティと幸福感(ウェルビーイング)との関係を調べた研究が少なくとも326件あり、そのうち256件(79%)で、信仰やスピリチュアリティを持つ人ほど幸福感が高いという関係だけが見られました。逆の関係が見られた研究は3件だけでした。

もちろん、関係があることと、信仰が幸福の原因であることとは、別の話です。研究を読むときには、その点に注意が必要です。それでも、手を合わせる、感謝をする、見守られていると感じる。そうした習慣が、多くの人の心の支えになってきたことは確かだと言えそうです。

だからこそ、人生の締めくくりを考える終活でも、財産や書類のことだけでなく、こうした心の安らぎを大切にしたいと考えています。

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2. 「心」だけでは守れないものがある

祈りや感謝の心は、私たち自身の心を穏やかにし、生きる力を与えてくれます。けれども、法律の手続きに関わる立場から、一つ現実をお伝えしなければなりません。

それは、心の中で願っているだけでは、現実の問題は解決しない、ということです。

葬儀を誰があげるのか。お墓はどうするのか。遺産をどう分けるのか。こうした現実の手続きは、どれだけ強く心の中で願っていても、自動的には動きません。

想いがあっても、準備がなければ意見が分かれてしまう

こんな例があります。

亡くなられたお父様は、生前、口ぐせのように「子どもたちには迷惑をかけたくない」「仲良くやってほしい」とおっしゃっていました。神棚にも毎日手を合わせる、信心深い方でした。

けれども、遺言書や死後事務の依頼など、具体的な準備は何もされていませんでした。その結果、お父様が亡くなったあと、葬儀の形式やお墓の場所、そして遺産の分け方をめぐって、ご兄弟の間で意見が対立してしまいました。

「父さんは質素な葬儀を望んでいたはずだ」
「いや、最後くらい立派に送ってあげるのが供養だ」

どちらも、お父様を想っての言葉です。けれども、ご本人の意思が形になっていなかったために、それぞれの想いがぶつかり合ってしまいました。

「祈り」を「現実の力」にするのが法律の役割

「家族に迷惑をかけたくない」「みんなが幸せであってほしい」。その尊い祈りを、願いのままで終わらせず、現実の社会で効力を持つ形に変えること。それが、遺言や契約といった法律の手続きの大切な役割だと考えています。

3. お墓は誰が継ぐのか:祭祀財産と祭祀承継者

お墓や仏壇は、遺産分割とは別に引き継がれる

お墓や仏壇は、預金や不動産とは別のルールで引き継がれます。民法897条は、系譜(家系図など)、祭具(仏壇・位牌など)、墳墓(お墓)の所有権は、相続のルールとは別に、「祖先の祭祀を主宰すべき者」が引き継ぐと定めています。この人を一般に「祭祀承継者」と呼びます。

祭祀承継者は、次の順で決まります(民法897条)。

  1. 亡くなった方が指定した人がいれば、その人
  2. 指定がなければ、慣習に従って決まる人
  3. 慣習が明らかでなければ、家庭裁判所が決める

祭祀承継者は、長男でなければならない、相続人でなければならない、という決まりはありません。お墓を守ってほしい人がいるなら、遺言などで指定しておくと、家族が迷わずに済みます。

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お墓や仏壇には相続税がかからない

お墓(墓所・霊びょう)や仏壇などの祭具は、相続税の課税価格に算入しない財産とされています(相続税法12条1項2号)。ただし、骨とう品として価値があるものや、投資のために持っているものなど、例外もあります。

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4. 墓じまい(改葬)の手続き

墓じまいとは

お墓を継ぐ人がいない、お墓が遠くてお参りに行けない、といった理由で、今のお墓を片づけてお骨を別の場所に移すことを、一般に「墓じまい」と言います。法律では、埋葬したご遺体やお骨を、別のお墓や納骨堂に移すことを「改葬」といいます(墓地、埋葬等に関する法律2条3項)。

改葬には市区町村長の許可が必要

改葬をするには、市区町村長の許可を受けなければなりません(墓地、埋葬等に関する法律5条1項)。許可をするのは、今ご遺体やお骨がある場所の市区町村長です(同条2項)。

改葬許可の申請書には、亡くなった方の本籍・住所・氏名、埋葬や火葬の場所と日付、改葬の理由、改葬先などを書き、主に次の書類をつけます(墓地、埋葬等に関する法律施行規則2条)。

  • 今のお墓や納骨堂の管理者が作る、埋葬・埋蔵・収蔵の事実を証明する書面
  • 申請者がお墓の使用者でない場合は、お墓の使用者の改葬についての承諾書など

このほか、受け入れ先のお墓や納骨堂が決まっていることを示す書類を求める市区町村もあります。必要な書類や様式は市区町村によって違うので、今のお墓がある市区町村に確かめてください。

墓じまいの大まかな流れ

  1. 家族や親族と話し合う(お墓に入っている方の親族の気持ちにも配慮します)
  2. お骨の移し先(新しいお墓、納骨堂、永代供養墓など)を決める
  3. 今のお墓の管理者(お寺や霊園)に相談し、埋蔵の証明をもらう
  4. 今のお墓がある市区町村で改葬許可を受ける
  5. お骨を取り出し、お墓を片づけて区画を返す
  6. 改葬許可証を移し先に出して納骨する

お寺の墓地の場合、お寺との関係をどう整理するかも話し合うことになります。お寺へのお礼などについて法律で決まった金額はなく、話し合いで決めることになります。

散骨を考えるとき

お墓に納めず、粉状にしたお骨を海や山にまく「散骨」を望む方もいます。厚生労働省のホームページには、令和2年度の調査研究で取りまとめられた「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」が掲載されています。散骨を事業者に頼むときは、こうしたガイドラインに沿った対応をしているかも目安になります。

5. 永代供養・納骨堂・樹木葬を選ぶとき

お墓を継ぐ人がいない方や、子どもに負担をかけたくない方の間で、永代供養墓や納骨堂、樹木葬を選ぶ方も増えています。これらは法律で決まった言葉ではなく、お寺や霊園との契約の内容によって中身が違います。契約の前に、次の点を確かめておくと安心です。

  • いつまで個別に安置され、いつから他の方と一緒に埋葬(合祀)されるのか
  • 最初に払う費用のほかに、年間の管理料がかかるか。管理料を払う人がいなくなったらどうなるか
  • お参りの方法や、法要をしてもらえるか
  • 運営する団体が、墓地や納骨堂の経営の許可を受けているか(墓地、埋葬等に関する法律10条)

なお、縁故者がいなくなったお墓(無縁墳墓)は、一定の手続きを経て、管理者がお骨を別の場所に移すことが法律で認められています(墓地、埋葬等に関する法律施行規則3条)。「お墓を守る人がいなくなったらどうなるか」を考えておくことも、終活の大事な一歩です。

6. 想いを形にする3つの備え

目に見えない祈りを、法的な形にする。司法書士として具体的にご提案できるのは、次の3つです。どれも単なる書類作成ではなく、ご自身の人生観やご家族への想いを未来へ届けるための手紙のようなものです。

① 遺言書(感謝を伝える)

遺言書は、財産の分け方を決めるだけの書類ではありません。「付言事項(ふげんじこう)」という部分を使えば、法的な効力とは別に、家族へのメッセージを残すことができます。

「長男には苦労をかけたね、ありがとう」
「家族みんなで仲良く助け合ってほしい」

こうした感謝の言葉を添えることで、遺言書は、家族の絆をつなぎ直す最後の手紙にもなります。祭祀承継者の指定も、遺言でしておくことができます。

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② 死後事務委任契約(旅立ちの希望をかなえる)

亡くなったあとの葬儀や納骨、身の回りの片づけ、役所への届出などを、あらかじめ信頼できる人や専門職に頼んでおく契約です。

「無宗教の形式で送ってほしい」
「お墓ではなく、海に散骨してほしい」

こうした宗教観や価値観にもとづく希望も、契約としてはっきりさせておくことで、周りの人を迷わせずに実現しやすくなります。遺言の付言事項に希望を書くこともできますが、付言事項には法的な効力がないため、実際に行ってもらうには死後事務委任契約とあわせて準備しておくと安心です。

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③ 尊厳死宣言公正証書(最期の医療についての希望)

回復の見込みがない延命治療を望まないなど、ご自身の医療についての意思を表しておく書類です。日本公証人連合会の説明では、尊厳死を望む方が、延命措置を差し控え、または中止することなどを宣言し、公証人がそれを聞き取って公正証書にするものです。

「最期まで自分らしくありたい」
「自然な形で旅立ちたい」

ご本人が意思を伝えられなくなったとき、ご家族や医師がつらい決断を迫られないよう、ご自身の考えを残しておくことは、残される人への思いやりでもあります。ただし、日本公証人連合会も、医療の現場では宣言に従うことが義務とまでは考えられておらず、作っても尊厳死が実現するとは限らない、と説明しています。いざというときに医師に示せるよう、信頼できるご家族に預けておくことが勧められています。

7. 準備を終えた人の穏やかな表情

司法書士は、遺言書の作成や死後事務委任契約など、人生の大きな決断の場に立ち会います。

すべての手続きを終えたとき、来られたときは不安そうだったお顔が、署名を終えて帰られるころには、神社でお参りをしたあとのような、すっきりとした穏やかな表情に変わっていることがあります。

「人事を尽くして天命を待つ」

書類を作っただけで、なぜ心が軽くなるのでしょうか。それは、老後や死への漠然とした不安という霧が晴れ、「やるべきことはやった」という気持ちが生まれるからだと思います。

昔から「人事を尽くして天命を待つ」と言われます。いつお迎えが来るのか、そのときどんな状況なのかは、誰にも分かりません(天命)。けれども、「そのときが来ても家族が困らないように準備する」こと(人事)は、今の自分の力でできます。

自分の力でできることを整え終えたとき、人は、自分の力ではどうにもならない未来への恐れを手放し、心の平穏を得られるのかもしれません。

準備そのものが「心の整え方」になる

大切にしたい価値を書き出す、ご先祖や亡き人に話しかける。心のよりどころを育てる方法として、よく挙げられる習慣です。

遺言書を作る過程は、この作業とよく似ています。これまでの人生を振り返り、大切にしてきた価値観を言葉にし、家族への感謝をつづる。この時間は単なる事務作業ではなく、ご自身の心を整える時間にもなるはずです。

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よくある質問

特定の宗教を持っていなくても、葬儀や供養の希望を残せますか。

残せます。宗教の有無にかかわらず、葬儀の形式や納骨の場所などの希望は、死後事務委任契約で実際に行ってもらうことができます。遺言の付言事項に希望を書く方法もありますが、付言事項には法的な効力がないため、実現してほしい場合は死後事務委任契約とあわせて準備するのがおすすめです。

お墓は長男が継ぐものですか。

法律では、長男が継ぐという決まりはありません。お墓や仏壇は、亡くなった方が指定した人、指定がなければ慣習に従って決まる人、慣習が明らかでなければ家庭裁判所が決めた人が引き継ぎます(民法897条)。継いでほしい人がいるなら、遺言などで指定しておくと安心です。

墓じまいをするには、どこで手続きをすればよいですか。

お骨を別のお墓や納骨堂に移すには、今のお墓がある市区町村で改葬許可を受けます(墓地、埋葬等に関する法律5条)。申請には、今のお墓の管理者が作る埋蔵の証明などが必要です。必要な書類は市区町村によって違うので、事前に確かめてください。

尊厳死宣言公正証書を作れば、延命治療をしないでもらえますか。

実現するとは限りません。日本公証人連合会も、医療の現場では宣言に従うことが義務とまでは考えられていないと説明しています。いざというときに医師に示せるよう、信頼できるご家族に預け、日ごろから考えを伝えておくことが大切です。

遺言書と死後事務委任契約は、両方必要ですか。

役割が違うため、両方そろえておくと安心です。遺言書は主に財産の行き先や祭祀承継者を決めるもの、死後事務委任契約は葬儀や納骨、各種の届出などを実際に行ってもらうための契約です。

まとめ

信仰心や、目に見えないものを大切にする感覚を持つことは、非科学的なことでも、恥ずかしいことでもありません。それは、長い人生の中で育んできた、優しさや強さのもとでもあるからです。

ただ、その大切な想いを心の中だけにしまっておくと、葬儀やお墓、遺産のことで、残されたご家族が迷ってしまうことがあります。お墓を継ぐ人を決めておく、墓じまいや永代供養について家族と話しておく、遺言や死後事務委任契約で希望を形にしておく。法律という器に入れることで、その想いは、ご自身がいなくなったあとも、ご家族を支える力になります。

遺言書の作成、祭祀承継者の指定、死後事務委任契約や尊厳死宣言の準備のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。「うまく言葉にできないけれど」という段階から、どうぞお話しください。

出典・参考

代表司法書士・行政書士 今井 康介

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