※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
母の介護を10年近く一人で担ってきた長女と、遠方に住んでほとんど顔を見せなかった弟。母が亡くなったあと、弟から「法律どおり半分ずつで」と言われ、長女が「あれだけ介護したのに」と言葉を失う。相続の話し合いでは、こうした場面が起こりえます。
「介護を頑張ったのだから、多めにもらえるはず」と考える方は少なくありません。けれども、法律の仕組みは、その期待とはかなりずれています。この記事では、介護が相続でどう扱われるのか(寄与分・特別寄与料)を整理したうえで、揉めないために親子で何を話し合い、何を形に残しておくとよいかを解説します。
先に結論:介護と相続のポイント
- 介護をしても、法定相続分は自動では増えません。増やすには「寄与分」を主張し、ほかの相続人の合意か家庭裁判所の判断が必要です(民法904条の2)。
- 寄与分が認められるのは、家族として通常期待される程度を超えた「特別の寄与」で、親の財産の維持・増加につながった場合です。同居して身の回りの世話をした、というだけでは認められにくいのが実情です。
- 相続人ではない親族(長男の妻など)は、「特別寄与料」を相続人に請求できます。ただし、相続の開始と相続人を知ってから6か月、または相続開始から1年で、家庭裁判所への申立てができなくなります(1050条2項)。
- 寄与分も、相続開始から10年を過ぎると原則として主張できなくなります(904条の3)。
- いちばん確かな備えは、親が元気なうちに介護と費用の分担を話し合い、親自身が遺言で「介護してくれた子に多めに」と形にしておくことです。
1. 介護をしても法定相続分は変わらない
法定相続分は民法900条で決まっています。たとえば子だけが相続人なら、子の取り分は人数で等しく分けます(900条4号)。ここには「介護をした人の分を増やす」という定めはありません。
つまり、介護をした長女も、何もしなかった弟も、出発点は同じ割合です。介護の貢献を取り分に反映させるには、次の章の「寄与分」を主張する必要があります。
2. 寄与分とは:認められる条件とハードル
民法904条の2は、共同相続人の中に、被相続人の事業への労務の提供や財産上の給付、療養看護などによって、被相続人の財産の維持または増加について「特別の寄与」をした人がいるときは、その人の取り分を増やすことができると定めています。
計算は、遺産から寄与分を差し引いたものを相続財産とみなして法定相続分で分け、寄与した人にはその取り分に寄与分を足す、という形です。
寄与分の主な類型
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 家業従事型 | 親の家業(農業・商店など)を長年、無償に近い形で手伝った |
| 金銭等出資型 | 親の借金を返した、親の家の購入費用を出した |
| 療養看護型 | 寝たきりの親を自宅で長期間介護した |
| 扶養型 | 親の生活費を長年負担した |
| 財産管理型 | 親の不動産の管理を無償で行い、管理費用の支出を防いだ |
条文に書かれているのは「事業に関する労務の提供」「財産上の給付」「療養看護」「その他の方法」です。扶養型・財産管理型は、「その他の方法」として実務で整理されている分け方です。
認められにくい理由
家庭裁判所の説明では、寄与分が認められるためには「家族の協力・扶助を越えた特別の貢献」が必要で、寄与分は当然に認められるものではなく、その事実を証拠によって証明しなければならないとされています。
親子や夫婦には、もともと互いに助け合う義務があります。そのため、次のような場合は「特別の寄与」とまでは評価されにくいと考えられます。
- 同居して、食事の用意や通院の付き添いをしていた
- 週に何度か様子を見に行っていた
- 介護サービスを利用しながら、手続きや見守りをしていた
- 介護の対価として、生活費や家賃の援助を受けていた
反対に、要介護度が高い親を、介護サービスを使えば費用がかかるところを長期間自宅で介護し、その分だけ親の預貯金が減らずに済んだ、といった事情があれば、寄与分が認められる可能性が出てきます。評価にあたっては、介護の期間・内容、介護サービスを使った場合の費用などが考慮されることがあります。
寄与分の上限と決め方
寄与分は、亡くなった時の財産から遺贈の額を差し引いた残りを超えることはできません(904条の2第3項)。
寄与分はまず相続人全員の話し合いで決めます。まとまらないときは、家庭裁判所の「寄与分を定める処分」の調停・審判を利用します。申立人は寄与をした相続人、相手方はそれ以外の共同相続人全員で、申立ての手数料は申立人1人につき収入印紙1,200円分です。寄与分は遺産分割の中で決めるものなので、審判に移ったときに遺産分割審判の申立てがなければ、不適法として却下される点に注意が必要です。
寄与分にも10年の期限があります
2023年4月1日施行の改正で、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割には、寄与分・特別受益の規定が適用されなくなりました(904条の3)。10年が過ぎる前に家庭裁判所に遺産分割を請求していれば、引き続き主張できます。期限と経過措置は、次の記事でくわしく解説しています。

3. 相続人ではない親族の「特別寄与料」(長男の妻など)
義理の親を介護してきた長男の妻は、相続人ではありません。以前は、どれだけ介護をしても、遺産から何も受け取れないのが原則でした。2019年7月1日施行の改正で、こうした人のために「特別寄与料」の制度ができました(民法1050条)。
請求できる人
被相続人に対して、無償で療養看護その他の労務の提供をし、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした「被相続人の親族」です。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいます(民法725条)。長男の妻は、義理の親から見て1親等の姻族に当たります。
ただし、相続人、相続放棄をした人、相続欠格や廃除で相続権を失った人は除かれます。また、条文は「労務の提供」と定めているため、お金を出しただけの場合は対象になりにくいと考えられます。内縁の配偶者は「親族」に当たらないため、この制度は使えません。
期限がとても短い
特別寄与料は、まず相続人との話し合いで決めます。まとまらないときは家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分」の調停・審判を申し立てますが、次のどちらかを過ぎると申立てができなくなります(1050条2項)。
- 特別寄与者が、相続の開始と相続人を知った時から6か月
- 相続開始の時から1年
また、2019年7月1日より前に始まった相続については、この申立てはできません。
だれが払う?税金は?
相続人が複数いる場合、各相続人は、特別寄与料の額に自分の法定相続分(遺言で指定があればその割合)を掛けた額を負担します(1050条5項)。
受け取った特別寄与料は、相続税の計算では被相続人から遺贈で取得したものとみなされます(相続税法4条2項)。相続税がかかる場合、長男の妻のように一親等の血族・配偶者以外の人は、税額が2割加算されます(相続税法18条)。相続税の申告が必要になるかどうかは、税理士への確認をおすすめします。
寄与分と特別寄与料の違い
| 項目 | 寄与分 | 特別寄与料 |
|---|---|---|
| 主張できる人 | 相続人 | 相続人ではない親族 |
| 根拠 | 民法904条の2 | 民法1050条 |
| 貢献の内容 | 労務の提供・財産上の給付・療養看護など | 無償の療養看護その他の労務の提供 |
| 決め方 | 遺産分割の中で決める | 相続人に金銭を請求する |
| 期限 | 相続開始から10年(904条の3) | 知った時から6か月・相続開始から1年 |
4. 寄与分・特別寄与料を主張するために残しておきたい記録
寄与分も特別寄与料も、主張する側が事実を示す必要があります。介護をしている最中は記録どころではないかもしれませんが、次のようなものを少しずつ残しておくと、あとで説明がしやすくなります。
- 介護日誌(日付、したこと、かかった時間。手帳やスマートフォンのメモで構いません)
- 要介護認定の通知書、ケアプランなど介護の状態が分かる書類
- 親のために立て替えた費用の領収書と、立て替えた記録
- 介護のために仕事を減らした・辞めた事実が分かるもの
- 病院や施設とのやりとりの記録
「あの時、確かにこう言った」という言葉は、あとから証明するのが難しいものです。記録を残す意味については、次の記事でも解説しています。

5. 親が元気なうちに話し合っておきたいこと
相続の話を切り出すのは、親にとっても子にとっても気が重いものです。そこで、「亡くなった後の財産分け」ではなく、「これからの暮らし(介護)」から話し始めると、話題にしやすくなります。
| 話し合うこと | 具体的な中身 |
|---|---|
| 介護の方針 | 自宅で過ごしたいか、施設も考えるか。親本人の希望を聞く |
| 役割分担 | 自宅介護ならだれが主に担うか。遠方の兄弟は何を受け持つか |
| 費用の出どころ | 介護費用・施設の入居金を親の財産から出すか、子が分担するか |
| 立替えのルール | 子が立て替えた費用を、記録しておいて精算するか |
| お金の管理 | 親の判断力が落ちたとき、だれが通帳や不動産を管理するか |
| 介護への報い方 | 介護を担う子に、遺言で多めに残すか。生前に対価を渡すか |
費用の分担があいまいなままでは、将来いくら遺産が残るのかが見えず、分け方の設計も難しくなります。また、親の預貯金を子が管理する場合は、出し入れの記録を残しておくと、あとで「使い込み」を疑われることを防ぎやすくなります。
相続が始まったあとのお金の問題
遺産分割の話し合いがまとまらないと、亡くなった方の預貯金は原則として自由に引き出せません。遺産分割の前でも、各相続人が一定額までは単独で払戻しを受けられる制度がありますが、同じ金融機関からは150万円が上限です(民法909条の2、法務省令)。介護の不満から話し合いが止まると、葬儀費用や相続税の納税資金の準備にも影響が出るおそれがあります。
6. 話し合った内容を「法的な形」にする方法
遺言:介護への感謝を配分に反映させる
「介護してくれた長女に多めに残したい」という親の思いは、口約束では法的な力がありません。遺言で配分を決めておけば、寄与分を主張して争う必要がなくなり、相続人同士の話し合いの負担も軽くなります。遺言の最後に、なぜその配分にしたのかを「付言事項」として書き添えておくと、ほかの子の納得にもつながりやすくなります。

ただし、ほかの子には遺留分(最低限の取り分)があります。配分を決めるときは、遺留分にも配慮しておくことが大切です。

長男の妻のように相続人でない人に報いたい場合も、遺言で「遺贈」することができます。特別寄与料の短い期限に頼るより、確かな方法といえます。
任意後見・家族信託:判断力が落ちたときの管理を決めておく
親が認知症などで判断力を失うと、本人名義の預金の引き出しや自宅の売却が難しくなります。そうなる前に、次のような仕組みを検討しておくと安心です。
- 任意後見:判断力が落ちたときに備え、だれに、どんな手続きを任せるかを公正証書の契約で決めておく制度です。
- 家族信託:信頼できる親族などに財産の管理を託す仕組みです。たとえば親が施設に入るとき、受託者が実家を売却して施設費用に充てる、といった設計ができます。


なお、成年後見制度は2026年6月に改正法が成立し、施行に向けた準備が進んでいます。改正の内容は次の記事で整理しています。

介護した子が援助を受けていた場合は「特別受益」も
介護をした子が、親から住宅資金などの援助を受けていた場合は、反対に「特別受益」として取り分が減る方向で計算されることもあります。特別受益の仕組みは次の記事で解説しています。

よくある質問
- 親と同居して身の回りの世話をしていました。寄与分は認められますか。
-
同居や身の回りの世話は、家族として通常期待される助け合いの範囲と見られることが多く、それだけで寄与分が認められるのは難しいと考えられます。介護の期間や内容、親の財産が減らずに済んだといえるかなどの事情によります。
- 長男の妻として義母を介護しました。遺産をもらえますか。
-
相続人ではないため、遺産分割に加わることはできませんが、要件を満たせば相続人に特別寄与料を請求できます(民法1050条)。相続の開始と相続人を知ってから6か月、相続開始から1年を過ぎると家庭裁判所に申し立てられなくなるため、早めの対応が大切です。
- 介護の対価として、親から毎月お金をもらっていました。
-
介護の対価を受けていた場合は、寄与分としては評価されにくくなると考えられます。また、受け取った金額によっては、反対に特別受益や贈与税の問題が出てくることもあります。
- 寄与分はいくらぐらい認められるものですか。
-
決まった計算式があるわけではなく、寄与の時期・方法・程度、相続財産の額その他一切の事情を考えて決められます(民法904条の2第2項)。療養看護の場合、介護サービスを使った場合の費用などが参考にされることがありますが、期待したほどの額にならないことも少なくありません。
- 兄弟が介護を手伝わなかったので、話し合いに応じたくありません。
-
遺産分割は相続人全員でする必要があり、話し合いに応じないままでは手続きが進みません。相続開始から10年を過ぎると寄与分も主張できなくなるため、気持ちの整理がつかない場合でも、早めに専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
まとめ
介護と相続は、切り離して考えることができません。「介護を頑張ったから多くもらえるはず」という期待と、「法定相続分どおりに」という法律の出発点にはずれがあり、そのずれを放置したまま相続が始まると、感謝されるはずの介護が争いの火種になりかねません。
相続が始まってから寄与分や特別寄与料を主張することはできますが、認められるハードルは高く、期限もあります。いちばん確かなのは、親が元気なうちに介護の方針と費用の分担を家族で話し合い、親自身が遺言で介護への感謝を配分に反映させておくことです。介護をしている方は、日々の記録を少しずつ残しておきましょう。
介護への思いを込めた遺言の作成、任意後見や家族信託の契約書の作成、相続が始まったあとの遺産分割協議書の作成や相続登記は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。寄与分や特別寄与料について家庭裁判所に出す申立書類の作成についてもご相談ください。
出典・参考
- e-Gov法令検索「民法」(第725条、第900条、第904条の2、第904条の3、第909条の2、第1050条、附則〔令和3年法律第24号〕第3条) https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「相続税法」(第4条第2項、第18条) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00222.html
- 法務省民事局「具体的相続分による遺産分割の時的限界」 https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf
- 裁判所「寄与分を定める処分調停」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_23/index.html
- 裁判所「特別の寄与に関する処分調停」 https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_25/index.html
- 岡山家庭裁判所「遺産分割手続Q&A」 https://www.courts.go.jp/okayama/vc-files/okayama/2023/kasai_tetuzuki/tetsuzuki_ippann/3_isanbunkatu_choutei/3103_isannbunnkatutetuduki_q_and_a.pdf

