※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「父が亡くなって8年。実家も預金も、兄弟で話し合わないままになっている」
「母の介護をずっとしてきたけれど、話し合いを先延ばしにしているうちに、何か不利になることはあるのだろうか」
遺産分割の話し合い(遺産分割協議)には、もともと期限がありませんでした。ところが、2023年4月1日に施行された改正民法により、相続開始から10年を過ぎると、生前の援助(特別受益)や介護などの貢献(寄与分)を、原則として主張できなくなりました。
この記事では、この「10年の期限」の中身と例外、2023年4月より前に始まった相続の扱い(経過措置)、10年を過ぎた後の分け方、遺産分割をしないまま放置したときの不都合を、順にお話しします。
先に結論:10年を過ぎると「法定相続分」で分けるのが原則。2023年4月より前の相続は、少なくとも2028年3月31日まで猶予があります
- 相続開始(亡くなった時)から10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益や寄与分を考えた「具体的相続分」ではなく、法定相続分(遺言で決められていればその割合)で分けるのが原則です(民法904条の3)
- 10年を過ぎる前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てておけば、10年を過ぎても特別受益や寄与分を主張できます
- 2023年4月1日より前に始まった相続にも、このルールが当てはまります。ただし、「相続開始から10年」と「2028年3月31日」のいずれか遅い時までは猶予があります(改正法附則3条)
- 10年を過ぎても、遺産分割そのものができなくなるわけではありません。相続人全員が合意すれば、特別受益や寄与分を考えて分けることもできます
- 放置している間に相続人が亡くなると、相続人が増えて話し合いが難しくなります。不動産があれば、相続登記の義務(3年)にも気をつけます
1. 遺産分割をしないままの遺産は「共有」の状態です
相続人全員で共有しています
亡くなった方に複数の相続人がいるとき、遺産は、遺産分割が終わるまで相続人全員の共有になります(民法898条1項)。これを「遺産共有」といいます。
遺産共有のあいだは、ひとつひとつの財産について、相続人がそれぞれ持分を持っている状態です。
- 不動産:売る、建て替えるなどの大きな変更には、原則として共有者全員の同意が必要です(民法251条1項)。貸すなどの管理は、持分の過半数で決めます(民法252条1項)
- 預貯金:遺産分割の前でも、各相続人が一定の額までは単独で払戻しを受けられます。額は「亡くなった時の残高×3分の1×その人の法定相続分」で、1つの金融機関ごとに150万円が上限です(民法909条の2、法務省令)。それを超える分は、遺産分割を終えてから手続きをします
遺産共有は、本来は遺産分割で早めに解消されるべき、一時的な状態とされています(法務省の資料)。
遺産分割の方法
遺産分割は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で行います(民法907条1項)。話し合いがまとまらないときや、話し合いができないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てます(同条2項)。
相続人の中に認知症の方や未成年の方がいるときは、代わりに話し合いに加わる人が必要になることがあります。

2. 2023年4月から:10年を過ぎると特別受益・寄与分を主張できません
特別受益と寄与分
遺産分割では、法律で決まった割合(法定相続分)をもとにしながら、相続人どうしの公平のために、次の2つを考えて取り分を調整することができます。
- 特別受益(民法903条):亡くなった方から、生前に生活の元手などとして贈与を受けたり、遺言で財産をもらったりした相続人がいるときは、その分を遺産に足し戻して計算し、その人の取り分から差し引きます
- 寄与分(民法904条の2):亡くなった方の事業を手伝ったり、療養看護をしたりして、財産を維持・増加させることに「特別の寄与」をした相続人がいるときは、その分を取り分に上乗せします
この調整をした後の取り分を「具体的相続分」といいます。特別受益については次の記事で、寄与分が認められる場面の考え方は、その次の記事で詳しく説明しています。


10年を過ぎると、法定相続分が基準になります
2023年4月1日に施行された民法904条の3は、相続開始の時から10年を過ぎた後にする遺産分割には、特別受益と寄与分の規定(民法903条・904条・904条の2)を使わない、と定めています。
つまり、10年を過ぎると、話し合いがまとまらない場合は、法定相続分(遺言で相続分が決められていればその割合。指定相続分)を基準に分けることになります。
法務省は、このルールを設けた理由として、次の点を挙げています。
- 期限がないと、長く放置しても不利益がなく、早く遺産分割を求めるきっかけが働きにくい
- 長い時間がたつと、生前贈与や寄与分の証拠が散らばり、関係者の記憶も薄れて、計算が難しくなる
具体例で見る違い
佐藤さん(父)が亡くなり、遺産は3,000万円、相続人は長男と次男の2人(母はすでに他界)とします。長男だけが、生前に住宅購入資金として1,000万円の援助を受けていました。
| 分け方 | 長男 | 次男 |
|---|---|---|
| 具体的相続分(特別受益を考える) | 1,000万円 | 2,000万円 |
| 法定相続分(10年を過ぎ、話し合いがまとまらない場合) | 1,500万円 | 1,500万円 |
具体的相続分では、遺産3,000万円に援助1,000万円を足した4,000万円を2人で半分ずつ(2,000万円ずつ)とし、長男は援助を受けた1,000万円を差し引いて1,000万円になります。10年を過ぎて法定相続分で分けると、2人とも1,500万円です。この例では、次男が主張できたはずの500万円の差が、反映されなくなります。
影響を受けやすいのは誰か
| 立場 | 10年を過ぎた場合の影響 |
|---|---|
| 介護や家業の手伝いをしてきた相続人(寄与分を主張したい人) | 寄与分を主張できなくなる |
| 生前に多額の援助を受けていない相続人(特別受益を主張したい人) | ほかの相続人が受けた援助を、計算に入れてもらえなくなる |
| 生前に多額の援助を受けた相続人 | 援助が計算に入らなくなるため、結果として取り分が増えることがある |
このように、10年を過ぎると有利になる人と不利になる人が分かれます。特別受益や寄与分を主張したい方は、10年が近づいてきたら、話し合いを待たずに家庭裁判所への申立てを考える必要があります。
3. 10年を過ぎても具体的相続分で分けられる場合(例外)
例外1:10年を過ぎる前に、家庭裁判所に遺産分割を請求したとき
相続開始から10年を過ぎる前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしていれば、10年を過ぎた後に調停や審判が終わる場合でも、特別受益や寄与分を考えて分けることができます(民法904条の3第1号)。
「家庭裁判所への遺産分割の請求」とは、遺産分割の審判や調停を申し立てることをいいます。10年を過ぎた後は、遺産分割の調停や審判の申立てを取り下げるには相手方の同意が必要とされており(家事事件手続法199条2項・273条2項)、調停の申立ても含めて扱われています。
条文は「相続人が」請求したときとしており、請求した人に限るとは書かれていません。そのため、相続人の一人が期限内に申し立てていれば、その遺産分割全体で具体的相続分によって分けることになると考えられています。
遺産分割調停の申立ては、相手方のうち一人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で決めた家庭裁判所にします。費用は、亡くなった方1人につき収入印紙1,200円分と、連絡用の郵便切手です(裁判所の案内)。
例外2:やむを得ない事由があったとき
10年の期間が終わる前の6か月以内に、遺産分割を請求できない「やむを得ない事由」が相続人にあった場合は、その事由がなくなってから6か月以内に家庭裁判所に請求すれば、具体的相続分で分けることができます(民法904条の3第2号)。
法務省は例として、「亡くなった方が遭難して亡くなっていたが、そのことが確認できず、請求できなかった」場合を挙げています。認められる場面はかなり限られると考えておくのが安全です。
例外3:相続人全員が合意したとき
10年を過ぎていても、相続人全員が「特別受益や寄与分を考えて分けよう」と合意すれば、具体的相続分による遺産分割ができます(法務省の資料)。10年のルールは、話し合いがまとまらないときの基準を決めたもので、全員が納得して分けることまで禁じるものではありません。
4. 2023年4月より前に始まった相続はどうなるか(経過措置)
2023年4月より前の相続にも当てはまります
10年のルールは、2023年4月1日より前に亡くなった方の遺産分割にも当てはまります(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則3条)。
ただし、施行の時点ですでに10年近くたっていた相続がいきなり期限切れにならないよう、猶予があります。期限は、「相続開始から10年を過ぎる時」と「施行(2023年4月1日)から5年を過ぎる時」の、いずれか遅い時です。施行から5年を過ぎる時は、2028年3月31日の終わりです(法務省の資料)。
| 亡くなった時期 | 家庭裁判所に遺産分割を請求する期限(目安) |
|---|---|
| 2018年(平成30年)3月31日以前 | 2028年(令和10年)3月31日まで |
| 2018年4月1日〜2023年3月31日 | 相続開始から10年を過ぎる前まで |
| 2023年4月1日以降 | 相続開始から10年を過ぎる前まで |
例で確かめる
- 2010年に亡くなった方の相続:施行の時点ですでに10年を過ぎていますが、2028年3月31日まで猶予があります
- 2016年に亡くなった方の相続:10年を過ぎるのは2026年ですが、それより遅い2028年3月31日までが期限です
- 2020年に亡くなった方の相続:10年を過ぎるのは2030年で、2028年3月31日より遅いため、相続開始から10年が期限です
「何年も前の相続だから、もう関係ない」とは限りません。古い相続ほど、2028年3月31日が近づいています。期限の日ちょうどを狙うのではなく、余裕をもって動くことが大切です。
5. 10年を過ぎても、遺産分割はできます
遺産分割の手続きで分けます
10年を過ぎても、遺産を分けられなくなるわけではありません。分ける基準が法定相続分(または指定相続分)に変わるだけで、分け方は引き続き遺産分割です(法務省の資料)。家庭裁判所の手続きで、遺産全体をまとめて分けることもできますし、配偶者居住権を設定することもできます。
共有物分割の手続きでも分けられるようになります
亡くなった方が、ほかの人と不動産を共有していた場合などには、10年を過ぎると、遺産共有の持分も含めて、地方裁判所の共有物分割の手続きでまとめて解消できるようになりました(民法258条の2第2項)。ただし、相続人が異議を申し出たときは、この方法は使えません。
行方の分からない相続人がいるとき
相続人の中に、所在が分からない人がいる場合、10年を過ぎると、裁判所の手続きで、その人の不動産の持分をほかの共有者が取得する方法も使えるようになります(民法262条の2第3項)。

6. 遺産分割を放置すると起きやすいこと
相続人が亡くなり、話し合う人が増える(数次相続)
遺産分割をしないうちに相続人の一人が亡くなると、その人の相続人(配偶者や子)が、遺産分割の話し合いに加わります。これを数次相続といいます。
たとえば、父の遺産を分けないうちに長男が亡くなると、長男の妻と子が、父の遺産分割の当事者になります。時間がたつほど、顔を合わせたことのない親族どうしで話し合う必要が出てきて、まとまりにくくなります。
相続人が認知症になる、行方が分からなくなる
相続人が高齢になり、認知症などで判断する力が落ちると、そのままでは遺産分割の話し合いに加われません。成年後見(改正後は補助)などの手続きが必要になり、時間と費用がかかります。連絡が取れない相続人が出てくることもあります。
証拠や記憶がなくなる
生前の援助や介護の記録、通帳、領収書などは、時間がたつと見つからなくなります。10年の期限がある今、特別受益や寄与分を主張したい方にとっては、証拠を早めに集めておくことが、いっそう大切になります。
法務局から通知が届くことも
相続登記がされないまま長い時間がたった土地について、法務局から相続人に通知が届くことがあります。届いたときの対応は、次の記事で説明しています。

7. 相続登記の義務化・相続人申告登記との関係
不動産を相続した方には、2024年4月1日から相続登記の義務があります。
- 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)
- 2024年4月1日より前に始まった相続も対象で、その場合は、施行日(2024年4月1日)と、取得を知った日のいずれか遅い日から3年以内です。多くの場合、2027年3月31日が期限になります(法務省の資料)
- 正当な理由なく申請を怠ったときは、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)
遺産分割がまとまらず、3年以内に登記ができそうにない場合は、「相続人申告登記」で義務を果たすことができます(不動産登記法76条の3)。自分が相続人であることを法務局に申し出る、簡単な手続きです。ただし、その後に遺産分割がまとまったら、分割の日から3年以内に、その内容に沿った相続登記をする必要があります(同条4項)。
つまり、相続登記の期限(3年)と、遺産分割の10年の期限は、別々に進みます。相続人申告登記をしても、遺産分割の10年の期限は止まりません。


なお、2026年4月1日からは、登記簿の住所や氏名が変わったときの変更登記も義務になっています。

8. 今からすること
- 期限を確かめる:亡くなった日を確かめ、4章の表で「10年」または「2028年3月31日」のどちらが期限かを出します
- 相続人を確定する:亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍などを集め、相続人を確定します。相続人が亡くなっている場合は、その方の相続人も確かめます
- 遺産を一覧にする:不動産、預貯金、株式などを書き出します
- 特別受益・寄与分の有無を整理する:生前の援助や、介護・家業の手伝いなどがあれば、記録や資料を集めます
- 話し合う・申し立てる:話し合いでまとまれば遺産分割協議書を作ります。まとまりそうにない場合や、期限が近い場合は、家庭裁判所への調停の申立てを考えます
- 登記をする:不動産があれば、遺産分割の内容に沿って相続登記をします。すぐにまとまらないときは、相続人申告登記も検討します
遺産分割調停の実情については、家庭裁判所の統計をもとに次の記事で説明しています。

よくある質問
- 遺産分割協議を放置していると、10年で遺産を分けられなくなるのですか?
-
いいえ。10年を過ぎても遺産分割はできます。変わるのは分ける基準で、話し合いがまとまらない場合は、特別受益や寄与分を考えずに、法定相続分(遺言で決められていればその割合)で分けるのが原則になります。
- 2015年に父が亡くなりました。期限はいつですか?
-
2023年4月より前に始まった相続なので、「相続開始から10年」と「2028年3月31日」のいずれか遅い時が期限です。2015年の相続では10年を過ぎるのが2025年なので、2028年3月31日までに家庭裁判所に遺産分割の請求をしておけば、特別受益や寄与分を主張できます。
- 10年を過ぎても、特別受益や寄与分を考えて分けることはできますか?
-
相続人全員が合意すれば、できます。また、10年を過ぎる前に家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てていれば、手続きが10年を過ぎて終わっても、特別受益や寄与分を主張できます。
- 相続人申告登記をしておけば、10年の期限は気にしなくてよいですか?
-
いいえ。相続人申告登記は、相続登記の義務(3年)を果たすための手続きで、遺産分割の10年の期限とは別のものです。申告登記をしても、遺産分割の期限は進みます。
- 遺産分割の調停の申立ては、司法書士に頼めますか?
-
司法書士は、家庭裁判所に出す遺産分割調停の申立書などの書類を作成できます(司法書士法3条1項4号)。調停の期日に代理人として出席することはできません。相手方との交渉や調停での代理が必要な場合は、弁護士への相談をおすすめします。話し合いがまとまった後の遺産分割協議書の作成や相続登記は、司法書士がお手伝いできます。
まとめ
2023年4月1日から、相続開始から10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益や寄与分を主張できず、法定相続分で分けるのが原則になりました。10年を過ぎる前に家庭裁判所に遺産分割を請求しておけば、10年を過ぎても主張できます。2023年4月より前に始まった相続は、「相続開始から10年」と「2028年3月31日」のいずれか遅い時が期限です。
10年を過ぎても遺産分割はできますが、放置している間に相続人が亡くなったり、認知症になったりすると、話し合いはどんどん難しくなります。不動産があれば、相続登記の義務(3年)にも注意が必要です。
遺産分割や相続登記のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。期限の確認、戸籍の取り寄せと相続人の確定から、遺産分割協議書の作成、家庭裁判所に出す調停申立書の作成、相続登記まで、順を追ってご案内します。
出典・参考
- 民法 251条・252条・258条の2・262条の2・898条・903条・904条の2・904条の3・907条・909条の2(e-Gov法令検索)
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則3条(e-Gov法令検索)
- 民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令(平成30年法務省令第29号)(e-Gov法令検索)
- 家事事件手続法 199条・273条(e-Gov法令検索)
- 不動産登記法 76条の2・76条の3・164条(e-Gov法令検索)
- 司法書士法 3条(e-Gov法令検索)
- 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(令和8年4月版)https://www.moj.go.jp/content/001444017.pdf
- 法務省「具体的相続分による遺産分割の時的限界」https://www.moj.go.jp/content/001372212.pdf
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
- 裁判所「遺産分割調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html

