※本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。
「この子には少し多めに残したい。でも、遺言だと他のきょうだいが納得しないかもしれない」。そんなときに検討されるのが生命保険です。受取人を指定した死亡保険金は、原則として遺産分割の対象になりません。まず動画で要点をご覧ください。
「父の生命保険金は、兄弟で分けないといけないのか」「借金があって相続放棄をしたいが、保険金は受け取れるのか」。相続の場面では、生命保険についてこうした疑問がよく出てきます。
この記事では、最高裁判所の判例と、保険法・相続税法の条文、国税庁の案内にもとづいて、生命保険金が相続でどう扱われるかを整理します。なお、相続税の具体的な税額の計算は税理士にご確認ください。
先に結論:生命保険と相続で押さえておきたいこと
- 受取人を指定した死亡保険金は、受取人が自分の固有の権利として受け取るもので、亡くなった方の相続財産ではありません。原則として遺産分割の対象になりません
- ただし、保険金が遺産全体に比べて極端に大きく、相続人の間の不公平が著しい「特段の事情」があるときは、特別受益に準じて持ち戻しの対象になります(最高裁平成16年10月29日決定)
- 相続税では「みなし相続財産」として課税の対象になり、相続人が受け取った分は「500万円×法定相続人の数」までが非課税です
- 相続放棄をしても、受取人として保険金を受け取ることはできます。ただし、放棄した人が受け取った保険金には非課税枠は使えません
- 受取人の変更は保険会社への通知で、遺言でもできます。離婚しても受取人は自動では変わらないため、節目ごとに保険証券を確かめておきたいところです
1. 受取人を指定した死亡保険金は「遺産」ではない
受取人の「固有の権利」
受取人を特定の人に指定した生命保険(死亡保険金)は、その受取人が保険契約にもとづいて、自分の固有の権利として受け取るお金です。最高裁判所は、死亡保険金の請求権は、保険金受取人が自らの固有の権利として取得するもので、保険契約者や被保険者から引き継ぐものではなく、その人たちの相続財産には属さない、という考え方をとっています(最高裁昭和40年2月2日判決。平成16年10月29日決定でも引用されています)。
そのため、受取人に指定された人は、ほかの相続人と「どう分けるか」を話し合わなくても、保険会社に請求して保険金を受け取ることができます。
遺産分割が終わる前でも受け取れる
亡くなった方の預金は、遺産分割がまとまるまで引き出しにくいことがあります。一方、保険金は受取人の請求で支払われるため、当面の生活費や葬儀費用、相続税の納税資金にあてやすいお金です。
なお、保険金を請求する権利は、請求できる時から3年で時効によって消滅します(保険法95条)。契約によっては約款で別の定めがあることもあるため、亡くなった後は早めに保険会社に連絡しておきたいところです。
受取人の指定のしかたで扱いが変わる
| 受取人の指定 | 相続での扱い |
|---|---|
| 特定の人(例:長男 佐藤一郎) | その人の固有の財産。遺産分割の対象外 |
| 「相続人」 | 各相続人が固有の権利として受け取る。割合は特別な事情がない限り相続分の割合(最高裁平成6年7月18日判決) |
| 亡くなった本人(被保険者自身) | 保険金は相続財産として遺産分割の対象になると考えられています |
2. 偏りすぎると「持ち戻し」になることがある
最高裁平成16年10月29日決定
保険金が遺産分割の対象外だからといって、一人に極端に偏らせると問題が起きることがあります。最高裁判所は、共同相続人の一人を受取人とする死亡保険金は、民法903条1項の「遺贈又は贈与に係る財産」にはあたらない、としたうえで、次のように述べています。
保険金受取人である相続人と、ほかの共同相続人との間に生じる不公平が、民法903条の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいと評価すべき「特段の事情」がある場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持ち戻しの対象となる。
「特段の事情」の判断のポイント
決定では、特段の事情があるかどうかは、次のような事情を総合して判断するとされています。
- 保険金の額
- 保険金の額が遺産の総額に占める割合
- 同居の有無、介護などへの貢献の度合いといった、受取人である相続人やほかの相続人と亡くなった方との関係
- 各相続人の生活の実態
この決定の事案では、特段の事情があるとまではいえないとして、持ち戻しは認められませんでした。「保険なら何をやっても大丈夫」でも「少しでも多いと持ち戻し」でもなく、配分のバランスを設計の段階で考えておくことが大切です。
遺留分との関係
遺留分(兄弟姉妹以外の相続人に保障された最低限の取り分)との関係でも、最高裁平成14年11月5日判決は、自分を被保険者とする生命保険の受取人を変更する行為は、遺留分の対象となる遺贈や贈与にはあたらない、と判断しています(改正前の民法の事案です)。ただ、保険金が極端に大きい場合の扱いには議論もあるため、遺留分にも配慮した設計にしておくと安心です。


3. 相続税では「500万円×法定相続人の数」まで非課税
みなし相続財産
死亡保険金は、民法の上では受取人の固有の財産ですが、相続税の計算では、亡くなった方が保険料を負担していた分は「相続や遺贈で取得したもの」とみなされ、課税の対象になります(みなし相続財産。相続税法3条1項1号)。
ただし、相続人が受け取った保険金は、全員の合計のうち「500万円×法定相続人の数」までは非課税です(相続税法12条1項6号)。
計算例:法定相続人が3人の場合
妻と子2人が法定相続人で、妻が1,800万円、長男が900万円の保険金を受け取った場合で考えます。非課税限度額は500万円×3人=1,500万円です。非課税の額は、受け取った額の割合で分けます。
| 受取人 | 受取額 | 非課税の額 | 相続税の対象 |
|---|---|---|---|
| 妻 | 1,800万円 | 1,000万円 | 800万円 |
| 長男 | 900万円 | 500万円 | 400万円 |
| 合計 | 2,700万円 | 1,500万円 | 1,200万円 |
同じ金額を現金や預金で残すより、非課税枠の分だけ相続税の負担が軽くなる場合があります。ただ、相続税がそもそもかからないご家庭もあるため、効果は財産の全体によって変わります。具体的な試算は税理士にご確認ください。
非課税枠で気をつけたい点
- 「法定相続人の数」は、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます
- 養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか数えられません
- 相続人でない人(孫や内縁の配偶者など)が受け取った保険金には、非課税枠は使えません
- 相続放棄をした人が受け取った保険金にも、非課税枠は使えません
保険料を誰が払ったかで、かかる税金が変わります
| 保険料を払った人 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|
| 亡くなった人 | 相続人など | 相続税 |
| 受取人自身 | 受取人自身 | 所得税 |
| 亡くなった人でも受取人でもない人 | 受取人 | 贈与税 |
非課税枠が使えるのは、亡くなった人が保険料を払っていて、相続人が受け取る場合だけです。

4. 相続放棄をしても保険金は受け取れる
借金が多いときなどに相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになり、預金や不動産も借金も引き継ぎません。一方、受取人に指定された死亡保険金は、相続財産ではなく受取人自身の財産なので、相続放棄をしても受け取ることができます。
ただし、次の点に気をつけたいところです。
- 放棄した人が受け取った保険金には、相続税の非課税枠が使えません。基礎控除を超えると、相続税がかかることがあります
- 受取人が「亡くなった本人」になっている保険金や、入院給付金など本人が受け取るはずだったお金は、相続財産として扱われることがあり、受け取ると相続放棄ができなくなるおそれがあります
- 相続放棄は、自分が相続人になったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に申し立てます。西宮市にお住まいだった方の相続放棄は、神戸家庭裁判所尼崎支部が窓口です

5. 受取人の指定と変更|遺言で変えるとき・離婚したときの注意
生命保険には、保険会社と契約して保険料を払う「契約者」、その人が亡くなると保険金が支払われる「被保険者」、保険金を受け取る「受取人」の3つの立場があります。受取人は契約のときに決めますが、あとから変えることもできます。
受取人の変更は、保険会社への届け出で行います
2010年(平成22年)4月1日以降に結んだ契約では、契約者は、被保険者が亡くなるなどの保険事故が起きるまでの間、受取人を変えることができます(保険法43条1項)。変更は保険会社に対する意思表示で行い、その通知が保険会社に届くと、通知を出した時にさかのぼって効力が生じます(同条2項・3項)。実際には、保険会社が用意する書類などで手続きをします。
契約者と被保険者が別の人の死亡保険では、受取人を変えるときに被保険者の同意が必要です(保険法45条)。
2010年3月31日までに結んだ契約には、原則として保険法ではなく、それまでのルールと契約の約款が適用されます(保険法附則2条)。変更できるか、どんな手続きになるかは、保険会社に確かめてください。
遺言で受取人を変えることもできます
2010年4月以降の契約では、受取人の変更を遺言ですることもできます(保険法44条1項)。ただし、遺言の効力が生じたあと、契約者の相続人が保険会社にその旨を通知しなければ、保険会社に変更を主張できません(同条2項)。通知の前に保険会社が元の受取人に支払ってしまうと、あとで家族の間の争いになりかねません。遺言の方式に不備があれば、受取人の変更も認められません。
遺言で変える場合は、誰がいつ保険会社に知らせるかまで考えておくことが大切です。生前に保険会社で手続きをしておけば、こうした心配は少なくなります。
「妻 ○○」と書いた受取人は、離婚しても自動的には変わりません
受取人を「妻 佐藤花子」のように書いていた場合について、最高裁判所は、氏名で特定された人を受取人とする趣旨であり、「妻」という表示だけで「妻である間に限って受取人とする」という意味にはならない、と判断しています(最高裁昭和58年9月8日判決)。離婚しても受取人の届け出を変えなければ、元の配偶者が受け取ることになりかねません。
「相続人」と指定していたとき・受取人が先に亡くなったとき
受取人を「相続人」と指定していた場合は、特別な事情がない限り、各相続人が相続分の割合で受け取ります(最高裁平成6年7月18日判決)。受取人が被保険者より先に亡くなり、そのまま変更していなかった場合は、その受取人の相続人全員が受取人になります(保険法46条)。
受取人を見直したいきっかけ
- 結婚・離婚・再婚をしたとき
- 子どもが生まれたとき
- 受取人が亡くなったとき
- 遺言や家族信託を考えるとき
こうした節目には、保険証券で受取人が誰になっているかを確かめておきましょう。
6. 保険・遺言・家族信託を組み合わせて設計する
生命保険は、特定の人にお金を渡す手段として役に立ちますが、それだけですべてが解決するわけではありません。不動産の承継は遺言で、認知症に備えた財産管理は家族信託や任意後見で、というように役割を分けて組み合わせるのが基本です。
設計のときに確かめたいこと
- 誰に、何を、どれくらい残したいか(保険金と遺産の合計で考える)
- 保険金が遺産全体に比べて大きくなりすぎないか(持ち戻し・遺留分)
- 受取人が今の希望どおりになっているか(保険証券で確認)
- 受取人が先に亡くなった場合の次の受取人をどうするか
- 保険に入る・受取人を変えるための判断能力が、今あるか
自社株を後継者に集めたい場合の遺留分対策として生命保険を使う方法や、「全財産を長男に」という遺言と保険の組み合わせは、下の記事でお話ししています。


よくある質問
- 保険金の受取人を「相続人」とだけ指定していました。これでも遺産分割の対象外ですか。
-
「相続人」という指定でも、判例では、各相続人が保険金を固有の権利として受け取り、その割合は特別な事情がない限り相続分の割合とされています。遺産分割の対象にはなりません。ただし、古い契約では受取人の書き方があいまいなこともあるため、保険証券で確かめることをおすすめします。
- 受取人が先に亡くなっている場合はどうなりますか。
-
受取人を変えないまま被保険者が亡くなると、先に亡くなった受取人の相続人全員が受取人になります(保険法46条)。誰がどの割合で受け取るかで争いになりやすいため、受取人が亡くなったら、早めに受取人の変更手続きをしておくことが大切です。
- 認知症になってからでも保険の見直しはできますか。
-
受取人の変更や新しい契約には、契約者の判断能力が必要です。判断能力が下がると、こうした手続きが難しくなります。見直しは元気なうちにしておくのが安心です。
- 相続放棄をしても、保険金は受け取れますか。
-
受取人に指定されていれば受け取れます。保険金は受取人自身の財産で、相続財産ではないためです。ただし、放棄した人が受け取った保険金には相続税の非課税枠が使えず、相続税の対象になることがあります。
- 保険金が多い相続人がいる場合、遺産分割で調整できますか。
-
原則として、保険金は遺産分割で考慮しません。ただし、保険金の額や遺産の総額に占める割合などから、不公平が著しい「特段の事情」があるときは、特別受益に準じて持ち戻しの対象になります(最高裁平成16年10月29日決定)。当てはまるかどうかは事情しだいです。
まとめ
受取人を指定した死亡保険金は、受取人の固有の財産で、原則として遺産分割の対象になりません。遺産分割がまとまる前でも受け取れるため、生活費や葬儀費用、納税資金にあてやすいお金です。ただし、遺産に比べて極端に大きく、不公平が著しい特段の事情があるときは、特別受益に準じて持ち戻しの対象になります。
相続税では、亡くなった方が保険料を払っていた保険金は課税の対象になり、相続人が受け取った分は「500万円×法定相続人の数」までが非課税です。相続放棄をしても保険金は受け取れますが、非課税枠は使えません。
受取人の変更は保険会社への通知で、遺言でもできます。離婚や受取人の死亡などの節目には、受取人を確かめておきましょう。保険・遺言・家族信託を組み合わせて、全体のバランスを考えておくと安心です。
遺言・家族信託など生前対策のご相談や、相続放棄の申立書の作成、相続登記のご相談は、西宮北口のシアエスト司法書士・行政書士事務所でもお受けしています。
出典・参考
- 最高裁判所 平成16年10月29日 第二小法廷決定(平成16年(許)第11号)https://www.courts.go.jp/hanrei/52421/detail2/index.html
- 国税庁 タックスアンサー No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」(令和8年4月1日現在法令等)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
- 相続税法3条・12条・15条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000073
- 保険法43条〜46条・95条・附則2条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/420AC0000000056
- 民法903条(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

